いつもの居酒屋にいつもの時間。
アンコが暖簾をくぐると、そこには既にゲンマとハヤテが座っていた。
二人は一体どういう経緯があったのか聞きたいぐらい、何故か仲が良い。
共通の趣味があるとは思えないし、少なくとも自分が特上になった時は
大して仲が良いわけではなかった。
一年ほど前からいきなりに、だ。
見れば見るほど不思議なコンビだ。
「や、イビキは?」
「おうアンコ。・・イビキなら後ろにいるじゃねぇか」
ゲンマが呆れたように指を差す。
後ろを振り向くと確かにイビキがいた。
「入り口で立ち止まるな。通行の邪魔だ」
「悪かったわよ。でもそっちだって一言ぐらい話しかけてくれればよかったじゃない」
文句を言ってハヤテの隣に座る。
イビキはアンコの隣に座る。
「ゴホッ、アンコさん。今日、他に来る人がいるって言ってましたが、誰なんですか?」
「そうだな、一体誰なんだよ?」
「コノトとカノコ」
一瞬場が凍った。
「イビキー、こいつ熱あるんじゃないの?」
「いや・・平熱だが、もしかしたら悪いものでも食ったかもしれん」
「いい薬持ってますよ。少し分けましょうか?」
アンコを指差して呆れたように、だが引きつった笑顔をつくるゲンマ。
アンコの額に自分の手をやって本気で心配するイビキ。
自分の懐の薬箱を探していくつかの丸薬を渡すハヤテ。
「あんたら〜、何のつもりかしらぁ?」
アンコがドスの利いた声でゆっくりと話しかけると、一同静かに口を閉じる。
「だって、あの二人が来るなんて言うからよぉ」
「そうですよ。何せあの二人ですし」
「てっきり、とうとう夢と現実の区別がつかなくなったのかと、な・・」
「残念ながら現実なんだよなぁ」
「そうそう。本人たちもまさかこういう場に出されるとは思ってなかったさ」
「ったく、あんたら揃いも揃って・・・・って、お二人とも来てたんですか」
ふと、会話に入ってくる青年二人。
笑ったまま表情が固まる馬鹿三人。
「よう、ゲンマにハヤテ。それと初めまして、イビキさん。皆敬語はいらないからね」
「・・初めまして。カノコです」
カノコが人の悪い笑顔で二人に話しかけ、
イビキに向かい合ったときだけ爽やかな笑顔を浮かべた。(営業スマイル)
「な、何でおまえらがここに・・・」
「俺たちにも色々事情があるんだよ、な?アンコ」
コノトが拗ねたような口調でアンコに話しかける。
「まあね。ってか、あんたたち、ゲンマとハヤテの知り合いだったの?」
「ゴホッゴホッガハッ!!!!」
「だ、大丈夫かハヤテ!!」

なんか隣でコントと見間違うようなやり取りをしている二人はあえて無視する。
「・・・まぁ、色々やっちまってな。二人には悪かったとは思ってるんだが」
「うんうん。ごめんね、ゲンマ、ハヤテ」
そのキラキラしたコノトの笑顔は信用できない、とその場にいた全員が思った。
「「もう、あのことは口に出さないでください」」
「・・・・・ちっ」
(舌打ちしたよ!!今絶対こいつ舌打ちしたよ!!)
ゲンマの無言の訴えに、ハヤテだけでなくイビキとアンコまでもが頷いた。
一般人に比べればずっと冷静でタフであるこの二人がここまで取り乱すとは、
一体コノトとカノコは何をしてのだろうか・・・・。
「ま、ともかく座ろうぜ」
いつの間にか全員総立ちになっていたのを笑いながらカノコが指摘する。
それに渋々頷いて、皆適当に席に座った。



続く