「シカマルー・・・さっさとあの子達の世話しに行きなさい」
「ん、この本読み終わったら」
「働かざる者食うべからずよ?そういう子はご飯抜きね!」

『あの子』と『そういう子』。
時々思うのだが、彼女にとって鹿と自分の息子を
全く同格に扱っている気がするのだが・・・気のせいだろうか。
大体さらりと軽く言っているが、一応、健康な子どもとしては夕飯が無いのは辛い。
俺は本を机に置いて、渋々と玄関に出て靴を履き替える。
せめて・・あと5ページぐらいで、Dr.ドリトルとカンガルーのグッシーの
ガチンコ異種格闘技対決の行方がわかったのに・・・・
母はにっこりとわらって鋸を渡した。

「鹿の角、五本よろしくね」




奈良家の、特に父の管理している山の鹿たちの角は
質が良いらしく、重宝がられているのは知っていた。
その分仕事も忙しく、忍びとしての任務もある父や母が
忙しく、手が回らないのもわかる。
だが、だが

どこにクナイも持たせてもらえないような子どもに
剥き出しの鋸を渡して山にほっぽり出す親がいるんだ・・

・・・ここにいるけれど。




「おー・・・・鹿発見」

気配を探るまでも無く呑気に眠っている鹿を見つけた。
俺はそっと影縛りで鹿の動きを止める。
印を組まなくとも何故か『奈良』の術だけ使えるのが、俺の能力。
親族連中が言うには血が濃く出ているそうだ。

奈良家の忍術が使えれば一人前→俺使える→俺一人前。

そういう理論で俺は働かなきゃいけないのか、母さん?






その後は黙々と無心で作業をして、さぁ帰ろうという段階で
俺は違和感に気づいた。
鹿たちが随分と多い。
いつもなら、他の栄養も取れるようにと用意した餌箱に群れているのに、
今日はそうではないらしい。
・・・餌切れてたか?

それが親に知られたらどうなるかわかったもんじゃない。
急いで山道をかけ登り、餌箱の場所に走っていった。
そして俺は見た。


鹿煎餅を一心不乱に食べる子どもを。

・・・実はその煎餅って奈良家の手作りなんだけどよ。
俺もつまみ食いしたことあるけど、鹿の食い物なのに、いける味だよな・・・・・



「・・っておい!!それ、鹿の食べ物だろ!お前食ってんじゃねぇよ!!!」
「げ、ばれた」

煎餅を食べていた俺と同い年ぐらいの子どもは、
悪びれも無くそう言って、最後の一枚を飲み込んだ。

「いやー、悪い悪い。ちょっと腹が減ってたから、つい」
「つい、じゃねえし・・・大体ここは奈良家の所有地だ、
 ばれたら怒られるぞ?」
「あいゃ、それは困った!ぜひとも内密にお願いだってば」
「はいはい・・さっさと帰れ」

キラキラとした金髪の子どもは、愛想笑いをしながら餌箱を離れた。
その時、ものすごい音で腹が鳴っているのが聞こえた。

「・・あれだけ食ってまだ食べたりないのかよ」
「あっはっは!俺の胃袋をなめるんじゃねぇぜ!」
「ったく、これ食っとけよ」

鹿用の煎餅を馬鹿食いするほど腹をすかせている人間を
放置するのも寝覚めが悪い。
俺はポーチに入れておいた握り飯を笑って誤魔化す子どもに渡した。

「いや、いらない」

笑顔に似合わない、妙にきっぱりとした声だった。
あれだけ腹が鳴っていたくせに。

・・巧妙に隠しているが、どうやらものすごい警戒されているらしい。
むしろ、こっちがそうするべきなのに、何なんだ一体。

「じゃ、無断で入って悪かったってば」

そう言って去っていきながらも、俺に背中を見せないようにしている。
おいおい、これ絶対子どものする動作じゃねぇって。
誰か忍びの変化?
いや、そうは見えないけど。
・・・・まあ、大体、忍者が鹿煎餅馬鹿食いするわけないか。

「おい、お前、名前なんていうんだよ?
 ・・・・・・・・先に言っとくが、俺は奈良シカマル」

何でこんなこと聞こうと思ったのかわからないが・・・まぁ、何となくだ。
一応、子どもは子ども同士コミュニティってやつを作るもんだろ?
子どもは一瞬困ったような顔をして、口を歪めた。
奇妙な笑い顔だった。よくわからんが、半分ぐらい面白がってる。

「うずまきナルト」



・・・・・納得。そりゃ警戒するわ。












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