一昨日、初めて食事に毒を盛られた。

今まで盛られなかったことの方が驚きなのかもしれないけど、
やっぱりかなりショックだった。
火影のじいちゃんが助けてくれたし、犯人は捕まえられたけど、
それ以来ちょっと食事に手を付けられなくなった。
食べなきゃ当然お腹が空く。
力だって入らなくなる。そういうこと自体が
あいつらの思う壺だってわかってるのに、食べ物が喉を通らない。

ふらふらと覚束ない足取りで向かった先は、どこかの山だった。
何か、果物でも山菜でもいいから・・・・という身体の無意識の欲求からだろうか。

しばらく歩いたら鹿を見つけた。
一匹し止めて焼肉にしようかと思ったけど、
よく見たら随分沢山、鹿がいる。
多分、ここは鹿山なんだろうな。だったらこいつら食べたら怒られちゃうかも。
肉はやめることにした。(でも他に何もなかったら食べようかと思う)


更にしばらく散策したら、今度は明らかに人が作った箱が置いてあった。
鹿たちがいっぱいいて、もしゃもしゃご飯を食べていた。
あー羨ましい。俺にもよこせ!!
でも鹿って草とか苔食ってるんだよな・・なんて思いながら箱を見たら、
なんと煎餅が数十枚並べられている。


・・・・・・・・・・・・・鹿煎餅って、結構美味しいらしいよね。







「・・っておい!!それ、鹿の食べ物だろ!お前食ってんじゃねぇよ!!!」
「げ、ばれた」

・・・・・・いやー、びっくりした。
いきなり背後で突っ込まれたし。しかも俺と同じぐらいのガキ。
全然気配なんて感じなかったんだけどな。こいつ、影薄いのか?
子どものくせに鋸なんか持ってて、ちょっと危ないよ。
ってかこの年頃で刃物なんて持っていいの?

なんか色々注意された。そっかー、この山ってこいつの家の所有地なんだ。
いいよな、俺もこんな山がほしい。
でも・・・・まずったなぁ。
俺九尾ってだけで、ちょっと迂闊なことするとすぐにネチネチうっさいこと
言う奴がいるんだよねー・・・

「それは困った。ぜひとも内密にお願いだってば」
「はいはい、さっさと帰れ」

え、いいんだ。帰っていいんだ?
こりゃまた随分と懐の広い子どもだなぁ。
一週間ぐらい感謝して覚えてるかも。

そそくさと立ち去ろうとした瞬間、俺の腹が
ありえないぐらいでかい音で鳴り響いた。
・・・・ああ!!この正直者さんめ!!!時と場合を弁えてくれよ!

案の定こいつは、眉を顰めた。
そうでしょうね!かなりあった鹿煎餅、俺全部食べきっちゃったもんね!
だが何ということか、この子ども、俺に握り飯まで恵んでくれた。

こいつ、物凄い良い奴だねぇ。ってかお人よし?
・・・・・・そりゃあもう、有り難くご飯を受け取ろうかとも思ったけど


やっぱ、信用ならないわけね。
こーいう手、結構使われてきたし。
最初は優しく。油断した隙にブスッ、とな。
だから、俺は握り飯を返した。
めっちゃくちゃ名残惜しかったけど返した。
またお腹が鳴りそうだったけど返した。

・・・・あー、もしかしたら本当に心からの気遣いだったのかも。
だったら何て勿体無いことを・・・いや、あきらめよう。
握り飯ぐらい自分で作れるじゃん。ああ・・美味しそう・・・・


俺は誘惑を断ち切って、子どもから離れた。
もう帰ろう。帰って、今日は何とか食事を頑張ってみよう。
背中は向けないように気をつけて歩き出したら、
子どもが名前を尋ねてきた。

へー、坊ちゃんシカマル君ですかい。
俺なんかと関わったらろくでもない人生になっちゃうよ。
でも、ま、一応教えといてやろう。
この年なら直接知らなくても、『ナルト』に関わるなと教えられてるかもしれないし。

「うずまきナルト」


さあ、どんな反応かな?
嫌がる?それともまだ俺のこと知らない?どっちだ。
鋸持ってるから攻撃するのだけは勘弁してほしいな。



「ふーん・・あー、そっか」


口に出してることを意識してなさそうな呟き。
・・・・・・・何故かほっとされた、というか・・納得されたっぽい。
予想外というか、一体何に納得したんだろ。








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