「ねぇ、ちょっとこれどういうことよ」



この万事屋にしては珍しく真っ当な依頼仕事を終えて帰る途中だった。
真撰組の屯所の前を通ろうとして、いきなり中に引っ張り込まれた。
最初に『誰か』に掴まれたのは新八だったが、
新八は神楽を、神楽は銀時の服を掴んだので結局三人とも中に入ることになってしまった。

「山崎・・さん?何するんですか!」
新八の声につられて振り向くと、確かにそこには山崎がいた。
状況的に、彼が引っ張り込んだと見て間違いないだろう。
「そうアル、私たち何も悪いことしてないよ。
 銀ちゃんが自動販売機のおつり・・ング」
「余計なことは言わんでよろしい」
「んーーー!」
自販機のおつりが取り忘れられていないかチェックするのはこの万事屋では常識となっている。
勿論、そんなことが逮捕されるほどの犯罪というわけではないが、
人に教えるにはあまりにセコすぎる。
「あの、どうしたんですか?」
新八は丁寧に山崎に尋ねる。
よく見れば冷や汗を掻いているし何かに怯えているようにも見える。
「あ・・・あ・・」
「どうしたんですか?本当に大丈夫ですか山崎さん?」
背中をさすってやると、山崎は頷いた。
「俺、俺犯人にされちゃうよ・・」

「・・で、一体どうしたんですか?」
恐慌状態に陥っていた山崎を宥め、何とか話を聞こうとする新八。
「あ・・・のですね、俺、事務処理している副長に・・お茶菓子を持っていったんです」
「ほー・・多串くん字ぃ書けたんだ」
「あれアル、自分の名前だけ書けばいいって仕事ヨ、きっと」
失礼なことを言って茶化す銀時と神楽。
「で、副長さんにお茶を出して?」
「・・はい、副長にお茶を出したら、珍しく俺のいる前で菓子に手を出したんですよ。
 そ、そしたら副長・・・・・血を吐いて倒れられて」
「・・・ああ、殺しちゃったんだ。嫌な上司だからつい?」
「ふん、そんなものありふれててニュースでも大して取り上げられないネ」
「いや・・真撰組、しかも副長となれば結構いいネタになると思うけどなぁ」
「「どっちにしろ面白いことにはなるな」」
声を揃えて喋る二人に、新八は両手で手刀をくらわせる。
「あんたら良い加減にしろよっ!!山崎さんマジで涙目になってるよ!!!」
「お・・俺何もやってないのに・・・・」
「山崎さんもこいつらの言うこと真に受けない!!」
「全くだ、探したぜぃ山崎」
「ほらこの人も探して・・・・・・・って」
「お、沖田隊長ー!!?」
沖田が背後にいたのを確認した山崎は再び錯乱状態に陥る。
銀時と神楽はすっかり傍観者となりこの状況を楽しんでいる。
「ちょ、山崎さん大丈夫ですか〜?!」
「ぎゃー、もう殺される!!切腹嫌だっ!腹切りフジヤマ芸者!!!」
訳のわからないことを叫ぶ山崎を見て、沖田はため息一つ。
だが次の瞬間には躊躇いも無くどこからか取り出したバズーカで頭を殴り倒した。
「いい加減マジで落ち着けや。・・・別に誰も土方さんを山崎が殺ったとは思ってねぇぜ」
「・・ほ、本当ですか?」
沖田の一撃が効いたのか、何とか気を取り戻した山崎。
「ああ、だが犯人は見つけなきゃいけねぇし、ほら・・戻るぞ」
「は、はい・・」
「それとそこのお三方」
「何〜?」
銀時の気の無い返事に、沖田はにやりと嫌な笑いを浮かべる。
「あんたらも容疑者に含まれてるから、強制連行」
「「「マジでか!!?」」」

「・・・で、事実確認をしたいと思います」
「ってか俺らマジで全く無関係だからさー」
「とりあえず、現場を旦那たちに見てもらいてぇんです」
銀時の言葉を綺麗に無視して、沖田は先に立ち案内する。
立ち止まったと思うと、軽く後ろを振り返りって襖を開ける。
そこには横になっている土方と、泣き崩れている近藤がいた。
「トシぃ・・なんで死んじまったんだよー!」
「近藤さん、山崎と万事屋の連中連れてきましたよ」
「・・・おう、山崎・・俺も皆もお前のこと信じてるからな・・!」
「は、はい・・」
涙を流しながら熱く語る近藤に、山崎は面食らったもののしっかりと返事をした。
「・・・・・あのー、ちょっと感動の場面で悪いんですけどねぇ・・」
「何だ万事屋の・・・・・眼鏡くん」
「もう眼鏡でいいですよ・・・あの、土方さんなんですけどね」
「トシがどうかしたかぁ?」
「どう見たって生きてるじゃないですか」
そこにいた全員が倒れている土方を見る。
喘息の発作のように息が荒いし、顔色も真っ白だ。それでも生きている。
・・・・だが息遣いはどんどん弱くなっていく。
・・・・・・・・・・・場がしんと静まった。
「ちょっと、総悟くんどうしよ!!?マジでトシ死んじゃってないぃぃぃ!!!?」
「まあまあ落ち着きなせぇ、土方さんは演技派ですから・・」
「いやいやいや、マジでこれヤバイよ!!!」
「って、な、何なんですか!!え・・演技派!?これってお芝居だったんっすか!!!?」
大混乱。阿鼻叫喚。
そんな表現がぴったりとくるこの状況。
「・・・あー、とりあえず銀さん、土方さんを病院につれて行くべきだと思うので電話借りましょう」
「いやいや・・・ここは王子様のキスで目覚めるっていう展開があるんじゃねぇか」
「でも銀ちゃんは王子なんて柄じゃないネ」
「んー・・いや、実は俺天パ星の王子様なのよ?」
「・・・・・・つっこみきれねぇんだよ、このど変態がぁーーーー!!!!」
拳で思いっきり銀時の顔を殴りつける。
土方の横に倒れこんだ銀時。
肩をつかまれる感触がした。
「・・・多串くん?」
「・・・・・・・み・・・・・・・水くれ」



←BACK  →→→