がさがさと木の葉が踏みつけられる音がする。
俺は太い幹の上にうつ伏せになり、出来る限り気配を消す。
あいつがいなくなったので、ゆっくりと息を吐いて起き上がった。
ったく・・・・・面倒なことに巻き込まれたぜ。
四日前の朝、自分が初めて世話を任された鹿が昨日から腹を壊していたから
こっそり抜け出して奈良家の山林に入る道を歩いていた。
日が昇ったばかりだから誰もまだ外に出ていなかったが、不穏な空気が漂っているのを感じた。
・・・あの林からだ。
別に、首を突っ込む気は無かった。
ただ気になってこっそり覗いてみたんだ。
子供が蹴られていた。
小さい子供が、忍者みたいな奴らに蹴られて、罵られて、うずくまっていた。
血がついたクナイが横につきたてられている。
おい、いくらなんでも酷すぎるだろ。
俺より小さいし、どう見積もっても3歳になるかならないかだろ?
あんな蹴られたらまだ弱くて細い骨は絶対折れる。
内臓だって、やばい。
力いっぱいやられれば、潰れちまう。
見過ごせなくて、俺は飛び出してそいつを抱き上げて大人たちを睨んだ。
「何やってんだよ!」
いきなり現れた子供の存在に驚いたのか、一瞬後ずさったがすぐに怒鳴りつけられた。
「うっせぇぞガキ!!てめぇにゃ関係ねぇだろ、さっさと消えろ!」
それでも俺が退かないと、拳を突きつけてきた。
脅しているつもりらしい。
むかついた俺は落ちていたクナイで素早く拳を刺した。
「っつ、このガキャ!!」
本気で怒ったらしく印を組み始める。
流石忍び。手からだらだらと血が流れていても怯まない。
はん、と鼻で笑って木の枝に上がり、隣の木々に飛び移った。
もう一度見下すように奴らと目を合わせた。
これでもう殺意の矛は自分に向いた。
奴らの姿が見えなくなったところで最近覚えた印を組んだ。
「ちっ・・こいつも外れだ。そっちはどうだ!!?」
「いや、こっちも違う。ちっくしょ、あいつ何処行きやがった・・・」
三人の男たちはある程度距離を保ちながらクナイを振り回す。
目の前にはそれぞれ同じ姿をした子供がいる。
これで五人目だ。
逃げる子供を殴ると、煙と共に姿が消えてしまう。
「大体、何であんなガキが分身できるんだよ!!」
そう言った男は極度の疲労でぺたりと地べたに座りこんだ。
攻撃をやめると子供は何も言わず走り去っていった。
もう追いかける気力すらない。
「普通じゃねぇよな」
「そうそう、あいつの目見たか?人間じゃねぇって!」
相手を貶めるつもりで言った言葉に、仲間の一人が顔を向けた。
「・・・もしかしたら、本当に人間じゃねぇかもな」
「は?」
「もしかしたら・・九尾の力じゃねぇか?」
「確かに、あんな鈍くさいガキよりは納得できるが・・それでも違うだろ」
「いや、だって誰があのガキに化け狐が封印されるとこ見たんだ?
火影様たちが言ってるだけじゃねぇか」
言いながらも顔はにやけている。
ただの戯言だ。
子供に負け、しかもその子供がいないところでこそこそと悪口を言い合う。
なんとも情けないことだが本人らが恥じ入ることはなかった。
「・・そう、あの子供は化け物ですよ」
いきなり後ろから声が聞こえ、男たちは振り向いた。
赤い髪の、線の細い男が立っていた。
細長い目を更に細めて、口元を綻ばせながら言った。
「あなた方は賢い。俺も、あの子供の正体を知っています」
嘘なのか本当なのか、そんなこと誰がわかるってんだ?
進