何でこんなことになってんだろうか?
俺が自分の異常さに気づいたのは2歳になるかならないかだった。
誰も覚えていないことを覚えている。
わからないであろうことが理解できる。
他人の気持ちが手に取るようにわかる。
どれもこれも俺にとってはいらないものだった。
普通に暮らしたいと思っている俺にとって、特異な能力は時として厄介ごとを持ってくる。
どっかの忍者が俺に九尾の狐が封印されてるのだと
勘違いして襲ってきたときもある。
そのとき俺は、過ぎた能力はどこまでも人を不幸にする力を持つと学んだ。
だからこそ、いつの間にか俺はその力を使おうとはしなくなっていた。
両親共に忍者だったので、別の職に就くつもりはない。
あと数年したらアカデミーに入って適当に勉強。
下忍・・まぁ中忍ぐらいになってそこらへんでこつこつ稼いで・・と。
それが俺の人生設計。
そこそこ危険があって、でも、平穏と言えなくも無い人生。
子供は少しの時間でかなり変わる。
アカデミーの規則では、一応入学時の最低年齢は六つ。(例外はいくらでもあるが)
あと一年ちょっとで、晴れて俺はアカデミーに堂々と出入りできるわけだ。
・・・・あそこは何だかんだで機密書が集められるから、是非とも行ってみたい。
昔は泣いてばかりいたイノも負けん気が強くなって、今ではリーダーシップを発揮している。
こいつも、俺と同じでアカデミーに行くらしい。
俺もかなり子供として浮いている存在ではあったが
(イノのおかげで)ある程度子供らしく遊んでいると思う。
この調子ならアカデミーでも完璧に『子ども』を演じられるな。
今だって、近所の子供とかくれんぼをしている。
あまり難しいところに隠れてはいけない。
あくまで、子供が考えそうなところに。
俺は近くにあった大木に登り、一番低い枝に座り込んで下を見た。
真下でもないかぎり自分の姿は見えるし、他の子供がどこにいるかも
ここならよくわかる。
横になり、雲ひとつ無い空を眺めながら考える。
本体の俺は今頃何をしているのだろうか?
『本物の』シカマルは人気の無い図書館の一角にいた。
影分身を置いてきてまで来たのだが、この図書館は一般に開放されているので忍術書などは殆ど置いていない。
ここ最近腕がいいと評判の中華飯店の店長が料理本を出したとかで、
それを借りに来たのだから別にいいのだが・・。
木の葉の忍者のみが利用できる図書館は別にあり、更にそこの中には上忍、暗部のみ入室できる書庫がある。
入りたいとは思うのだが、そうなるとのどかに暮らしたいと思う自分の人生設計に問題が生じる。
そういうわけで、自分の知的欲求を抑えつつ麻婆茄子のレシピに目を落としている。
ここに来て三十分も経っただろうか。
急いで来たように思われる若い男が自分の肩を叩いた。
「君があの人の使いの人だね。五分以内に行かなきゃいけない用事があるんだ」
そう言って一枚の紙を押し付けられた。解読しろということらしい。
表では馬鹿で通そうと思って図書館に行くときのみ変化していたのが災いした。
二十前後のシカマルをどこぞの約束した忍と見たらしい。
シカマルは人違いだと言おうとしたが、本当に切羽詰って泣きそうな顔で
こちらを見ているのでしぶしぶ紙を読んだ。
数字と漢字が入り乱れた文で人によっては眩暈が起きそうだが、
コツさえ掴めば割りと簡単な暗号であった。
「『六日の明け方、岩の里東方にあり大岩に約束の品を。』」
ため息を吐きながら男に紙を突っ返す。
思った以上に早く解読されたからか、驚いた表情になったが
すぐに笑顔になり「ありがとう」と言い姿を消した。
下忍ではない、恐らく中忍、上忍か。
「お見事ですねぇ、私が口出す必要もありませんでした」
振り返ると小柄な老紳士が立っていた。
日が差し込み時々子供の声が聞こえたりするのどかなこのフロアに、妙に浮き立った存在だ。
「私が使いに出した者が遠方の実家の父の急死で呼び戻されてしまったんですよ。
しょうがないので私が来たのですが、彼はあなたが使いの者だと勘違いしてしまいましたね・・」
シカマルは内心焦っていた。
この、ただ喋っているだけの老人は今まで会った誰よりも手強いと脳内で警報が鳴り響いている。
ただの勘だが、仮にも忍者を目指している者としてはそれを無視してはいけない。
「いやはや何とお詫びしていいやら。
・・・・ですがあなたのその頭脳、なんとも素晴らしいですな。
いやはや、しかし、あなたのような突出した才をお持ちの方はそう見かけませんな。
お名前、教えていただけませんかの?」
ここで本名を名乗ったら本当に自分の夢見る未来が崩壊するだろう。
だからといって偽名など使えば下手すれば間諜に間違えられるかもしれない。
「いえ、名乗るほどの者ではございません。それにあのくらいの暗号であれば
そこそこ忍術書を読みかじればある程度載っているものですし」
それは本当だった。実際、あの類の暗号はシカマルの家にある本にも
載っていた覚えがある。難度としては中級の初めぐらいなのだろう。
「いえいえ、確かに超難解なものではありませんでしたが
どう見ても子供としか思えないその年齢で解読できるとは、感服に値しますよ!」
冷や汗が出た。本当に。
変化としては、これでも完璧だと思っていた。
親や上忍にこの姿で会っても怪しまれない自信はある。
なのに、何故この老人はわかるのだろう、自分の真の姿に。
シカマルの思っていることを察したのか老紳士はにこやかに笑った。
「同じようなことをやっている子がいるので・・まぁさっきのはちょっと
ひっかけましたが、図星みたいですな」
「何が望みですか?俺としては三代目には報告しないでいただけるとありがたいんですが」
予想の範疇だったのか別段驚きもしなかったが笑みが深くなった。
「恩人の頼みではしょうがないです・・ただ、そう、私の仕事を手伝ってくれると
こちらも助かるんですがなぁ」
「・・・・仕事とは?」
これで暗部の仕事とか言われたら逃げるつもりでいた。
「特書館の司書をやっておるんですが最近年のせいか辛くなってくるんですよ。
お手伝いとして、時々でいいんで仕事を手伝ってくれませんかな?
もちろん、バイト代は出しますよ」
特書館、それは上忍、暗部のみ出入りが許されている書庫の俗称であり、
シカマルが常より行ってみたいと望んでいた場所でもある。
一瞬、自分が望むあまり幻聴を引き起こしたのではと疑った。
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