神様?









偶然とはいえ、特書館の司書の手伝いをするとは、奇跡に近いだろう。
流石に一般では超極秘に値するので自分の身分は明かさなければならなかった。
自分のことを明かしたのだから、と言うと名前はサコウだと言った。
「君があのシカマル君でしたか。実は狐に憑かれたのは君だって裏で噂が流れてたねぇ」
笑いながら言っているが当人は本当にあれで苦労した。
里は偽の情報を流し、わざと自分たちから狐を遠ざけようとしたのでは、と
一部忍者の間ではよく囁かれていたらしい。
「明日、その格好でむこうの図書館の入り口に来てください。
 大まかな仕事の仕方を教えますから」


仕事、と言ってもそれは本当に楽なものだった。
開館時間に、隠された通路を通り特書館に入り受付にいるだけ。
たまに、貸し出しや返却を頼まれた場合は専用のノートにその記録を取る。
暇な時間にはここにある本を自由に読んでいいと言われた。
閉館時間におおまかに掃除をして終わり。
聞いたときは本当に楽な仕事だとシカマルは驚いた。
「まぁ、今日は私と一緒にやりましょう」
時々来る忍びたちは司書の隣にいる見たことの無い人間に一瞥をくれるが
大して気にした様子も無く目的の本棚に向かう。
結局今日は閉館まで誰も借りに来なかった。
床を掃除しているとサコウが横に立った。
「明日からはお願いしますね。時々は様子を見に行きますから」
「わかりました、万一何かあったらどうすればいいんですか?」
何か考え込む素振りをしたが、恐らく殆ど考えてはいないのだろう。
「そうですねぇ・・じゃああの水晶を使ってください。多分私に繋がると思いますから」
「(多分かよ!!)わかりました。」


それからずっとシカマルが司書をすることになったがサコウが来ることは全く無かった。
ぶっちゃけ面倒な仕事を俺に押し付けただけなんだろう、と思ってはいたが
読みたくてしょうがなかった門外不出の本をいくらでも読めるというのは嬉しいことだった。
「あの、これの貸し出しお願いできますか?」
一人の上忍らしき男が二冊の本を持ってきた。
一番初めのころとは違い、最近はよく貸し出しや返却に訪れる人が増えた気がする。
「はい・・・あぁ、こちらの本は貸し出しは不可となっております、申し訳ないですが」
「え?そうなの・・。残念だなぁ。これと似た本ってない?」
「雲の里の民間伝承なら一番奥の棚のほうに説話集としてあります」
数週間もここにいると、どこに何の本があるかも大体わかってくる。
礼を言って本をとりに行く男をちらっと見て、すぐに読んでいた本に目を落とす。


いつもどおり、時間が来たのでシカマルは席を立った。
時間になっても、読書に熱中しすぎて残っている者がたまにいるからだ。
案の定、棚に寄りかかって座っている金髪の男を見つけた。
だが微かに匂ってくる血の匂いにシカマルは眉をひそめた。
「怪我してんだったら病院行けってんだよ・・・」
ため息をつきつつ手を伸ばすと、男は青い目をこちらにすっと向けた。
睨まれているわけではないのだが、威圧感がある。
「・・・ここの管理は爺さんがしてなかったか?」
「俺は手伝いです」
「そうか、悪かったな。帰るよ」
よろめきながら立ち上がり、押さえてはいるが右腕の袖がどす黒く変色しているのが見える。
貧血で倒れていたのかもしれない。
本当に面倒なことになってきた、と思いつつも
「こっち来てください。多少の手当てぐらいできますから」
と言ってしまう自分がにくい。





・・・そう、何故自分は彼の手当てを買って出てしまったのだろう。
まさか、これほど面倒なことになるとは思ってもみなかった。


とりあえず、そう、カウンターに彼を座らせたのだ。
掃除をしたとき偶然見つけた救急箱を持って来ようとした。
戻ってきたときいたのは『彼』ではなかった。
いや、上忍や暗部の中には自分の姿を変化で隠す者がいてもおかしくはない。
暗部など特に、そうだ。
だが、シカマルの目の前にいつ変化の解けた『彼』は・・幼い子供だった。
幼いという表現は5歳のシカマルが言うにはおかしいかもしれない。
同い年と言っても通じる、多分かなり年は近い。
というか自分は彼を知っている。
「うずまきナルト」だ。
子供や、果ては大人にまでも殴られたり暴言を吐かれているのを見たことがある。
・・・・・・こりゃ三代目も絡んでいるんだろうな。
内心、頭を抱えつつも手際よく薬を塗っていく。
ガーゼが無かったことに気づき、しょうがなく近くのティッシュ箱に手を伸ばす。
あらかた手当てが済んだので、壁側の小さな長椅子に寝かせた。
手当てしたからといって放っとくわけにもいかず、一体の影分身を作る。
「俺の代わりに家に帰ってくれ」
「わかった」
頷くと分身は闇に消えてしまった。
シカマルはやり残した掃除を始めることにした。