気づいたら包帯が巻かれてあって驚いた。





久々のSクラス任務で腕が鈍っていたのかもしれない。
最後の最後にドジを踏んで結果がこの大出血だ。
病院に行ってもよかったのだが、この疲れきった状態では
いつ変化が解けるかわからないのでやめた。
今でも、九尾の狐の器の俺を隙あらば殺そうとする人間は数え切れない。
・・といってこのままのこのこと家に帰れば監視者に何か悟られかねない。
とりあえず体力を回復させるために特書館に入り込んだ。
幸いというかやはりというか、人気はほとんど無かった。
基本的に特書館という存在自体も明示されていないしな。
しばらく眠っていたんだが、気づいたら閉館だと司書らしき奴が話しかけてきた。
俺の知る限り、司書は初老の男だった気がしたがそこにいたのは若い男だった。
手伝いの人間らしい。
少し疑ってしまった。あの曲者の爺さんが誰かを自分の代わりにここで働かせるなんて・・。
帰ろうと、なんとか力を振り絞って立ち上がると「手当てをする」と言われた。


カウンターに座らせられた時、柄にも無く安心してしまったのかもしれない。
うつらうつらと眠ってしまった。


起きてみると、特書館の長椅子に横になっていた。
変化は解けていた。
それでもきちんと手当てしてくれたのを見ると、相手に殺意はないらしい。
縛られていもいないし、ご丁寧に着ていた黒い上着を上にかけてくれている。
明かりがついているからこの部屋のどこかにまだいるのだろう。
耳をすますとやはり物音がしている。
ナルトは上着を持って音のする方へ歩いていった。


彼は雑巾でこの木製の床を丁寧に拭いていた。
近くにはブリキのバケツがある。
よく見たら、どうやら自分の血で汚れた部分を拭いているようだった。
そういえば、結構な出血量だったし汚れているのは当然
・・・・悪いことをした、とナルトは思った。
当の彼は掃除に集中しているらしく、ナルトが後ろに立っているのに気づく素振りもなかった。
「おい」
声がして、本当に初めて気づいたらしく、驚きながら振り向いた。
「あ、起きたのか。大丈夫か?本当は病院でちゃんと手当てしてもらったほうがいいんだが」
「手当てしてくれたのは感謝する。これも返す」
彼は無言で受け取ってそれを着込む。
細身で比較的長身の彼には真っ黒のそれはよく合っていた。
「だが、俺の正体を知ってしまった限り、恩はあるがあんたの記憶を消さなくちゃいけない」
できるだけ冷徹に言ったつもりだ。
自分の正体を知りながら、こうして助けてもらったのは今回が初めてだ。
はっきり言って、かなり困惑している。
「いやだ」
だから彼がこう言った時、不覚にもかなり変な顔をしていたと思う。
「何で記憶を消されなきゃいけねぇんだよ」
「あ、安心しろ。そんな副作用が出るような危険は無いから」
本当に間抜けなことを言っていたと思う。
「んなこと言ってんじゃねぇって。・・じゃぁこうしないか?
 俺とナルトで何かゲームをする。ナルトが勝ったら記憶を消せばいいさ。
 俺が勝ったら・・」
「勝ったら?」
「うーん・・・じゃぁなんか奢れよ、ラーメン?」
自分の記憶とラーメンって、全然釣り合ってない気がするんだが・・。
そんな俺を尻目に、こいつはカウンターの引き出しから何か出している。
「あ、将棋あった。これでいいか?」
どっちみち負ける気はないけれど。




・・・・結論から言うと俺は負けた。
いや、完膚なきまでにやられたわけではない。
一週間という時間をかけて俺は負けた。
まさか、そんなに長い時間勝敗が決まらないとは俺も奴も思わなかっただろう。
この勝負は当然特書館で行われ、一部忍びの間ではちょっとした名物になってしまった。
勝敗がついた時には周囲から拍手まで起こったぐらいだ。
「こんなに長くなるとはな」
欠伸をしながらこいつは駒を箱にいれ引き出しにしまった。
通いつめ始めて必ず出されるようになった緑茶を飲みながら俺も頷いた。
「お前さー、滅茶苦茶強いのな。ってか俺一週間も会ってるけど
あんたの名前知らないんだけど・・誰?」
ぎょっとするように見つめられた。
「あれ?言ってなかったか!?・・・・あー本当だ、言ってねぇや」
そう呟くとにやりと笑い、いきなり変化を解いた。
・・・こいつは。
「シ、シカマル!!!?」
「おー、俺のこと知ってたか。意外だな」
ナルトが驚いているのが本当に楽しいらしい。
一応、名家の子供は護衛対象になりうるのでチェックしているのだ。
「ってか何でお前ここにいるんだよ?!年幾つだ!」
「それ言うんだったら、てめぇだってんな年で暗部やってんじゃねぇよ!!」
どっちもどっちなのだが、何故かにらみ合いになる。
話を先に切り出したのはシカマルだった。
「ま、ともかく俺が勝ったんだから今日の夕飯奢れよ」
悔しそうにナルトはそっぽを向く。
「ふん、いつものぼけっとしているシカマル君はどこに行ったんだか」
「ほー、あの馬鹿っぽくてガキくせぇナルト君こそどこへ行ったんだろうな?」
二人は顔を見合わせて笑う。






二人が無二の親友になるのはそう遠くない日。