街の光が見える。
普通に生活していれば絶対にこの美しい夜景は見れなかったであろうから、
ナルトは自分の運の良さ素直に喜んでいた。
・・・・・こんな状況でなければ。
「おい、食事だ」
人が折角この世の美しさに浸っているというのになんて奴だ。
どこまでも無粋なグラサン背広男をとことん無視し、
ナルトは窓辺から目を離さない。
「おい!」
仕方なくそちらを向いてやるとトレーを押し付けられた。
軍艦ではあるが主に特権階級の道楽に開放されているらしく、
この船に連れ込まれたときにお貴族様やら白い制服を着込んだシェフを見かけた。
実際、今ここに押し付けられた食事も見た目からして
そこらの飯屋で出されるようなものとはわけが違う美しさだ。
が、自分はそんなに舌は肥えていないのでどうでもいい。
「・・・・・・ラーメンは?」
「んなもんあるわけないだろうが。・・・あー、インスタントが」
「ふざけるなっ!!!!!」
机をばしりと叩き、部屋にいた全ての人間がナルトに顔を向ける。
が、そんなこともお構いなくナルトは目の前の男の胸倉を掴み
何度も強く揺さぶる。目がすでにイっている。
「こんな豪華空挺に禄にラーメンも作れないシェフばっか
用意しやがって!!!税金無駄遣いしてんじゃねぇよ!!!
俺の金返せっっ!!!!!!!」
「・・・・あのねぇ、ナルトは納税なんてしてないデショ。
それに、君は今一応囚われの扱いなんだから、
あんまりわがまま言わないでほしいなぁ」
これ以上暴れるなら縛ってお口アーンで食べさせるよ?
と、嬉しそうに提案する男。
確か、カカシと呼ばれていたはずだ。
この男は変態オーラがどことなく滲み出ていて、正直相手をしたくない。
ナルトはおとなしく椅子に座り、また窓に目を向ける。
「君が俺たちに快く協力してくれれば、
こっちだって悪いようにはしないんだけど・・・」
「はんっ。か弱い子ども一人に軍の精鋭部隊連れてきて
説明も無く総がかりで拉致るようなやつらが、ねぇ?」
「いやー、君が野獣のように凶悪だって噂を聞いちゃってさ。
悪いなぁとは思ってるんだよ?」
そんなことを微塵も思ってないことは、その態度を見れば一目瞭然であるけれど。
見たところ、この中で最も強そうなのもこのカカシで、
さてどうしようかとナルトは頬杖をつく。
そもそも軍の連中に抵抗もせず大人しく連れられてやってきたのは
いい加減あの山奥にこもるのも飽きたからであって、
こいつらに協力する気は全く持って無い。
だがこのままでは否が応でも軍部に監禁は必至で、
そろそろ真面目に逃げ出す準備を整えた方がいいのだろう。
流れる雲。
地上に煌く灯。
そして蝿のようにぶんぶん飛ぶ海賊。
「・・・・・・って海賊?」
「何っ!!?」
ナルトの呟きに、一斉に周囲の人間が窓に張り付く。
確かに海賊の影を確認し、慌てて武器を取りに走り回る。
空の上ということもあり誰もナルトに注意を払わなくなった。
(・・・・・・・・そろそろ、行動開始と行きますかねぇ)
爆発音が段々と近づいて大きくなっていく。
カカシを一応見張りに残し、軍人たちは出払ってしまった。
いや、カカシは一人で軍本部と通信をし始めたから見張りですらないのだろう。
ナルトを、全く無抵抗の一般市民として見ているのだ。
馬鹿なやつ等だと内心嘲り、ナルトは手ごろな空のワインボトルを手に取る。
そしてカカシの背後に忍び寄り、昏倒させるつもりで
「死ねぇぇ!!!!!」
撤回、殺すつもりで瓶を勢いよく振り下ろした。
悲鳴一つあげることもできず倒れたカカシを仰向けに転がし、
懐から自分がここに来る途中盗られたペンダントを取り返す。
後は適当に飛行船の客に紛れて脱出を図ればいい。
急いでドアノブに手をかけたところで、嫌な予感がして一瞬立ち止まる。
ドンドンドンドンッ!
「おい、開けろ!!」
「・・・・・・・・・やっば、思ったより早く海賊来ちゃった」
ナルトはドアから身を離し、窓を開ける。
ひとまず窓伝いで隣の部屋に移動したほうがいい。
確かカモフラージュのためにと一般客室だったはずだ。
窓から外に出たのと、海賊にドアがこじ開けられるのはほぼ同時だった。
五月蝿い声が響く。
「ボス・・・じゃない、ママ!誰もいませんっ!」
「いや、待て、外にいる!隣の部屋に逃げる気だ!!」
海賊の一人が窓から身を乗り出して手を伸ばす。
服の裾を捕まれそうになったので、思いっきり振り払う。
「触んなよマザコンっ!」
「マザコンじゃねぇよ!!」
少し彼は涙ぐんでいた。
海賊には海賊なりに様々な事情があるらしい。
が、そんなことはナルトにとってどうでもいい。
隣室の窓からも海賊が顔を出してきた。
これは、挟まれた、というやつか。
「おい、俺たち別に乱暴したりはしないから、早く引き返して!」
「風が強くなってきた・・・!!」
騒ぎ立ててこちらの身を心配する自分と同じ年頃の子どもの海賊たち。
彼らの後ろから冷静な目で自分を観察するボスらしき女と目が合った。
どうやら、きちんと事情を知っているのはあの女だけらしい。
にやりと不敵に笑って声を張り上げる。
「人の心配してる場合じゃねぇぜ?
お前らが欲しがっている力、とくと見せてやるから・・よっ!」
ナルトは掛け声と同時に飛行船の壁面からそっと手を離した。
060715:見るに耐えないので書き直し
050325:作成
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