奈良シカマルにとって、この町は大層居心地も都合も良かった。
「おばさん。肉団子二つよろしく」
「あらシカマル久しぶりじゃない。また徹夜?」
「ガキンチョはあんまり夜中まで無理すんじゃねぇぞー」
「そうそう、それに男なら家で机に向かって勉強するより、
鉱山でちょっくら力仕事、のがかっこいいぜ?」
「こーら、変な勧誘しない!シカマルもあんまり怪しげな仕事はやめなさいよ?
ほら、肉団子2つ。まいどありー!」
「ありがと、んじゃ。そっちも仕事お疲れさん」
「「おー、またなっ」」
「あんた家に引きこもってないでたまには顔出しなさいよっ!」
鉱夫の知り合いたちと別れ、街を歩く。
夜中だというのに通りは明るく、ざわめきが波のように溢れていた。
この町は、鉄鉱の採掘が主な資源だが、
その周囲に職人たちが住み着き、細工物や質の良い武器も輸出している。
また、職人の多い町は自治を担う組合があり、
彼らの師弟制度や採掘労働の出稼ぎで人の流入が多く、外に対しての情報も早い。
どこまでも、自分に都合の良い町。
家に帰って、贔屓にしている店の肉団子を頬張りながら机に向かう。
大量の書類やら本やらが山積みにされていて、
今日は徹夜を覚悟か・・・とため息一つ。
「・・・っつか、まーたきな臭いことし始めてるし。
飽きないっつうか、懲りねぇ国・・・・・・・・・」
シカマルの仕事とは軍が収集した暗号データを解析し、
その規則性を整理して紙に書き起こすことだ。
大変機密性が高く、軍の人間でもない子どもがやれることではないが、
それは、アルバイトというやつだ。
今は亡き両親の友人であった軍人(と言っていいものか怪しいが)からの
依頼で、実入りもいいのでつい引き受けてしまう。
電卓を心の友とし、書類に目を通し始めたところでふと、窓を見る。
何かきらきらと光ったものが動いた気がした。
時期的に流星というわけではないだろう。
窓際に近づき、ぎゅっと眉根を寄せて目を凝らす。
やはり、何かの光源が、徐々に落下していくのが見えた。
距離的には炭鉱の方だろうか。
「・・・・好奇心は猫をも殺すっていうけどなぁ」
一瞬見たときは、本当に柄でもないが、天使かと思った。
空からふわりふわりと降りてきた子どもは、
身に着けていたペンダントが青く発光していて、この世のものかと疑うほど綺麗だった。
それが浮遊の原因だろうと頭はすぐに判断を下したが、
さて、どうしようか。
(オカルトだの占いだのが好きなテンテンだったら、
嬉々としてこの子どもを拉致って観察するに違いないが)
明らかに何か問題を抱えていそうだが、
ここで手を差し伸べないのは人道的にどうかと思う。
とにもかくにも落ちてくる子どもを両手で受け止めてやると、
光は徐々に消えて、最終的には重力の力が正常に働き、人並みの重さになった。
「く・・・・・重っ!」
そんなに人一人支えられるほど筋力が無いので、
できるだけそっと床に下ろす。
最初に目についたのは金色の短い髪。
整った顔立ちで、女かとも思ったが多分男。
シカマルと同い年か、それに近い年頃だろう。
「・・・・・・・・・やっぱ、連れて帰った方がいいよな」
奇妙な珍しい印が刻まれた人を浮かせる青いペンダント。
これが正確に何なのか、この少年が誰なのか、何故空から降ってきたのか、
どれも絶対といえる答えは出せないけれど、
ただ一つ
「絶対、これ、面倒なことになりそう・・・・・」
シカマルは、自分のそこそこに平穏であった日常が
覆される日を、どことなく察していた。
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