「くそっ、くそっ!!!」


息が切れるのも構わず、シカマルはただガムシャラに走る。
目の前で、人が落ちていくのを黙って見るしかなかった。
海賊と行動を共にした時点で、人の死はついてまわることはわかっていたのに、
頭で理解していたのに、

吐き気がするほど気分が悪くなった。

冷静になれ、これ以上被害を出しちゃいけない。
こんな頭に血が上った状態じゃ、ラピュタにいる人間どころかナルトだって助けられない。

頭を何度か振って、思考を切り替える。



『ラピュタの内部に行ける隠し通路』


あの時ナルトはそう言った。
石碑といえば、ここに来て直ぐに見つけた、アレのことだろう。
カカシの目の前で喋っていたから、
もしかしたら入り口に罠を仕掛けられるかもしれないが・・
今はもう、手段を選べる時間もない。



「シカマルっ!おまえ、あの子の言ってた石碑に行くんだろ!?連れてけよっ」
「ゲンマ・・・・」

急いで広場に向かおうとすると、ゲンマが走って合流してきた。
同じく、ナルトの言葉を聞いたようだ。
ラピュタ内部に入る道を探す、と言いながらここにいるということは
やはり他に入り口は無かったらしい。
もう、この隠し通路に賭けるしかない。








「こんなところに、隠し通路があったとはなぁ・・・」
「ああ。俺も気づかなかった」

ただの墓石だと思っていた。
実際、通路として使われていなかったせいか、
入り口の継ぎ目は苔で覆われ、その存在を知らなければ素通りしていたことだろう。
ゲンマが絡まったツタや苔を荒っぽく引き剥がし、
取っ手のような溝を掴み、力を入れると簡単に扉が開いた。
高度な技術を多用するラピュタにしては原始的な作りの入り口だ。

ゲンマに続き中に入ると、そこは真っ暗・・ではなかった。
所々にあるランプのようなものが光っていて、
明るくはないが、暗くもない。
罠らしきものが仕掛けられていないことを確認し、また走る。





「・・・そういえば、ハヤテは?」
「別行動のまま会ってねぇ・・・・多分、無事だと思うけどな」
「そうか・・・・おい、ゲンマ。分かれ道だ」

入り組んでいたが一本道だった通路。
それがいきなり二股に分かれていて、立ち止まる。

「とーぜんっ、ここは別々に進むべきだろうな」
「問題は、俺たちが単独で九尾に遭ったとして、勝てるか、だな」
「俺も、ハヤテかシカマルとの連携で戦闘を想定してたからなぁ・・」

死ぬ、かもしれない。

それを意識した瞬間ぞわぞわと背中に冷たいものが流れる。
カカシに憑りついた九尾の幻影を見た時のことを思い出した。
人を虫ケラのように見下したあの目。幻影からでも、その実力差が簡単に見て取れた。
アレに本当に、勝てるのか?

パチリと、手の叩く音が通路に木霊し、シカマルは音源を振り返った。
・・ゲンマは、手をもう一度叩いて、芝居がかった滑稽な動きで、
神に祈るような仕草をした。
明らかに、緊迫したシカマルを和ませようとしているのがわかる。



「・・・・ま、確実に負けるなんて決まってねーし。
 勝利の神様に願掛けでもしときゃ、大丈夫かな」
「・・・・・・・・」
「お前は、俺より死線潜ってるから、余計に九尾のヤバさがわかっちまうんだよな。
 ・・・・・・・無理は、しなくていい。辛いなら戻ったって、文句言わん」
「・・・ゲンマ、ありがとう」
「ん」
「ナルトさえ、いなけりゃ。多分、俺戻ってたと思う」
「そっこまでお前さんの意識改革するなんて、よっぽどの子だよな・・・」
「もう、昔のへっぴりの俺じゃないから、大丈夫だよ」

ゲンマが渋い顔をするのを無視して、片一方の道に足を踏み入れる。
もう、悪い想像と予測は無駄だと気づいた。



お互い口には出さないけれど、
無事に、また会えることを祈って。
二人は正反対の道を走り出した。









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