「あら、シカマル・・・!」
夜も更け、それでも家の明かりで眼が眩む。
サクラは行きかう人々の中に見慣れた少年を見つけ、声を掛けた。
海賊に追われている彼を、家族そろって心配していたのだ。
「イルカ先生―、シカマル帰ってきたよ!」
家に向かって声を張り上げると、バタバタとイルカが出てきた。
「ああ、よかった・・無事だったんだな。心配していたんだ・・・・・あの子はどこだ?」
イルカはしゃがみこんでシカマルをぎゅっと抱きしめる。
無事を確認したところで今度は周りを見回す。
「・・・・・・・・イルカさん、迷惑おかけしました。んじゃ」
一礼してさっさと歩いていくシカマルを心配そうに見つめるイルカ。
サクラは小さくため息をついて、イルカを家に戻そうと励ます。
「先生、あんな状態のシカマルを心配するなんて、時間の無駄よ」
何があったか知らないけれど、問題を起こして後悔するのは彼ではなく相手側だ。
サクラはそう確信していた。

そんな話がイルカたちの間でされているとは知るわけも無いシカマルは
自分の家に近づけば近づくほど、妙な違和感を感じた。
息を殺してはいるが、自分の家から気配がする。
まるで待ち伏せでもするかのように。
・・・・軍ではない、自分にずっと構っているほど暇ではないはずだ。
ということは
「とぁー!!覚悟!」
突然、家の扉から飛び出してきた海賊を、シカマルは軽くかわして上から叩きつける。
次に横から不意打ちを狙おうとした別の海賊を引っ掴み投げ飛ばした。
家の中を素早く盗み見ると、一人の女とその脇を固めるように立っている海賊二人。
中央の女がボスなのだろう。
「おい、あんたら、ここは俺の家だ。さっさと出て行け」
「まあいいじゃないか。ちょうどいい潜伏場所だったんだ」
女はにこやかに笑って家主でもないのに手招きをする。
力づくで追い出してもいいが、面倒だったので手前の椅子に座る。
「あの飛行石の子ども、守れなかったんだね」
「うっせーよ。あいつらと同じように狙っていた奴らが何を言う。出てけ」
「海賊なんだもの、財宝を狙うのは当然さ。おかしいのはあいつらじゃないか」
子どもごと攫うなんていくらなんでもおかしいだろ、飛行石だけで十分のはずなのに。
その言葉を聞いて、シカマルは海賊の印象を少し改めた。
力づくで物を奪う奴らだと認識していたのだが、存外頭も良いようだ。
「なあ、あんた。あの子どもが無事に生きて帰れると思うかい?」
「まさか・・どうせ石の秘密を聞き出したら始末されるだろ」
「わかっていたか。・・全くいじらしいねぇ。男を助けるためにつれない態度!私の若い頃にそっくりだ」
「・・・・はぁ?」
この女は十分若いように見えるが・・どう見たって二十代。童顔でも三十代前半。
シカマルの自然な疑問に、海賊の一人が補足する。
「綱手様は幻術を使って、若く見せているんだ。実際は五十・・」
「シノ!」
ごすっと、シノと呼ばれた海賊は床に沈んだ。
妙齢の女性の歳は、そうそう安易に教えてはならない。
「・・・そういえば、おまえの家を物色させてもらったが。面白いものが沢山あるなぁ?」
「・・・・・・・書庫まで入ったのか?」
「モチロン。随分小難しい本がある。・・おまえ、解析得意だろ?」
「あんたも、その口か」
頷く綱手を見、シカマルはしばらく考える。
自分の暗号解析の能力が重宝することは
同業のこの女海賊は気づいてくれるだろう。
手を組めばてっとり早くナルトに近づくことが出来る・・・・
シカマルが考え込む中、いきなり無線の音が鳴り響く。
綱手は慣れた手つきで素早くイヤホンを耳にあて、手帳を片手で捲る。
「・・・・ちっ、暗号変えやがったか。チョウジ、紙とペン持ってこい!」
「おい」
「なんだ、こっちは忙しいんだよ」
「この暗号、俺ならすぐ解ける。・・俺を一緒に連れていってくれるなら、解く」
子どもがこんなことを言えば、大抵なら笑われるだろう。
だが、綱手は書庫をみて、自分の頭の良さをわかっているはずだ。
「・・・・嘘は無いか?」
「ない。誓う」
しばらく、といっても数秒も経っていないが、綱手とシカマルの間に沈黙が流れた。
綱手は椅子から立ち上がり、シカマルをそこに座らせた。
「解け、ここに内容を書き写すんだ」
「どーも。契約成立っすね」