「・・・・飛行船を召集して、ナルトと一緒に基地を出発する気だ」
シカマルはノイズしか入らなくなったイヤホンを綱手に渡した。
綱手は感心したようにシカマルをしげしげと見ている。
「・・・何ですか?」
「いや、ここまで速く正確に無線の暗号を解析できるとは思わなかった」
素直な賞賛に、不自然に目を逸らすシカマル。
こちらを見ようとしない。
「・・どうした?」
「・・・・・・実のとこ、この暗号の仕組みを作ったのは俺の家族デス・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・はぁ!!?」
「いや、結構割の良い仕事だったらしくって」
「・・軍の間者じゃないな?」
「それは本当に誓えますよ」
「ならいい。でも怪しい動きをしたら空から落とすからね」
僅かに脅しを込めて睨みつけるが、
シカマルは頷くだけで、特に気にしている様子は無かった。
「出発されたら手が出せなくなる。おまえらも出る準備しな!!」
綱手の一喝で、シカマルの家で寛いでいた海賊たちは素早く家を飛び出す。
「シカマル、ここへは二度と戻らない覚悟があるのか?」
「承知の上ですよ」
「・・・40秒で支度しろ!」
「了解ー」
だるそうに、しかし早足で梯子を駆け上るシカマル。
そこら辺の同年代の子どもよりも愚鈍に見える。
「・・・・・・・・・・・やっぱり、あいつ連れてくの間違ってるか?」
使えそうだから仲間にしようと思っていたが・・
あの暗号は家族の誰かが作ったようだし、ということはあの書庫の本ももしかして全部親のもの・・・?
・・・ぶっちゃけ、あの飛行石の子どもの警戒を解くぐらいしか使い道が無い気がする。
綱手は判断ミスったかなー、と思いながら家を出た。
シカマルは屋根の上の鳩小屋の前に立っていた。
思えば、彼らは両親が生きていた頃からずっといたのだ。
『シカマルー、ほら、鳩さんたちだよ!』
『・・・母さん。これどうしたんだよ』
『彼らはねぇ、すっごい小さくなることができるから帽子の中にも入れられるのよ』
『・・・・・・・・・それ、マジックだから』
『しっ!・・ったく、シカマル。母ちゃんの夢を壊すなよー・・』
・・・その後、母は急に飽きて、結局自分が面倒を見ることになったのだ。
『ねえ、シカマル。このトランペットあげるわ』
『・・・今度はどうしたんだよ』
『ほら、白鳩が飛ぶ中を、少年がトランペット吹いてたら、絵になると思わない?』
朝日とかオプションについてたらもっと素敵になるわね。
などと付け加える空恐ろしい母。
『誰が吹くかよ!!』
『あら、シカマル器用だからすぐに吹けるようになるわよ』
『そうだぜぇ?俺の息子なんだからな!ちょちょいのちょいさ』
『そういう問題じゃないから!!』
結局、その時は吹かずに済んだのだが・・・
『シカマル君・・』
『ああ、おじさん。俺は大丈夫ですよ?親も多少遺産みたいなもん遺してくれてるみたいだし』
『そのことなんだけどね』
『・・?』
『遺言状みたいなものが見つかってね、君の相続には条件があるみたいなんだ』
『何ですか?』
『・・・毎朝、定時に鳩を外に出しトランペットで一曲演奏すること、らしい・・・・』
『・・・・・・・・・・・んのバカ夫婦・・!!!!』
あの時は思わず暴言を吐いてしまった。
いや、死ぬときまでそんなもん拘らないだろう、普通。
結局あまりにむかついたので、相手の思惑に乗らないよう
腹いせのつもりでムードぶち壊しの正露○のテーマ曲などを吹くことにしたのだが・・。
・・・・あまり、いい思い出は残っていないが、鳩に罪は無い。
大分家を空けたのに、餌箱にはちゃんと餌が入っている。
どうやら海賊たちは世話をしてくれていたらしい。
外側から簡単に開けられる錠を開け、扉を開け放つ。
夜中のせいか、あまり鳩たちは出たがらないが放っておくことにした。
朝になればいずれ出るだろう。
時間がないので振り返りもせず、シカマルは梯子を使い下に降りていった。
「ったく遅い!ほら、ベルトをしっかり自分の身体に巻きつけるんだよ!!」
バリバリと煩いエンジン音が響く中、綱手の大声は耳をつんざく。
急いでベルトを巻きつけると、いきなり体制が崩れ、妙な浮遊感を感じる。
(・・・・・・・こりゃしっかり掴まってないと、ナルトに会う前に本当に落とされるな・・)
シカマルは綱手の背後で、眉を顰めながらサイドの手すりを強く握りこんだ。
自分が今まで住んでいた家に、未練が全く無いとは言えなかった。
だがナルトと出会い、共に逃げ出すときにある程度腹は決めていたので
大してあの家に心残りは無かった。
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