一緒に里にやり返そうぜー、なんて言ったはいいものの、
やっぱりすぐに何か思いつくわけでもなく。
だらりだらりと、普段と変わらない生活を送っていた。
少し変わったことといえば、ナルトとよく話すようになったことと、
木の葉の里について書かれた本を中心に読むようになったこと。
・・・といっても、やはり何も変わらない日常。
もうすぐ母さんが夕飯だからと呼びにきそうな時間で、
俺は読んでいた本を枕代わりにして寝転がった。
ふと、何気なく窓辺を見ると、ひょっこりと見慣れた顔が飛び出した。
ここ二階だったよなー・・何て思いながら、俺は眼を瞑った。
きっと夢だ。最近本の読みすぎで寝不足だったからなぁ・・なんて思ったりして。
「シカー・・・シーカー!!」
「・・・・・なんだよ、ナルト」
やっぱ夢じゃないか。
「明日、空いてる?」
「空いてると思う」
「じゃあ、釣り道具持って、おまえの鹿山の入り口で待ち合わせなっ!六時にっ!」
「・・・・・・・んー」
言いたいことだけ言っていなくなったナルト。
寝ぼけながら応えたが、何故に釣り?
鹿山には水っ気なんて無いし・・ああ、山と繋がってる森には
もしかしたら川なり何なりあったかもしれない。
夕食を食べながら、ふと今日の昼の出来事を思い出し、
俺は親父に尋ねた。
「あー、親父。釣り竿ってあったっけ?」
「・・あるけど。何だ、釣りに行くのか?」
「おう、明日」
「どんどん爺むさくなってくなぁ!あっはっはっは!!」
「って、あなた。シカマル一人じゃ危ないからついていってやりなさいよ」
「え・・・いや、別に」
やばい、これで親父について来られたら、ナルトと鉢合わせ。
・・・・親父なんてもろ九尾事件で借り出された忍者だしなぁ・・流石に、ちょっと。
「シカマル?」
「いや、俺、一人でいいよ」
「そうそう。ガキったっていちょまえの男なんだからそれぐらい平気だよな〜?」
「おう」
「・・あんまり遠い所に行くんじゃないわよ」
「わかった」
あー、よかった。助かった。
母さんはあんま納得してないみたいだけど、とりあえずもう
何か言うことはないと思う。
今だけ感謝するよ、親父。
「よっし、シカ、来たな!」
「ったく、こんな朝早い時間に起きるなんて、俺の柄じゃねー・・」
ナルトはこんな早朝にも関わらず、元気そうに笑っている。
日も出ていないのに麦藁帽子をかぶって、釣り道具が入っているらしい
バッグを背負ってる。釣竿がはみ出てるし。
「今日は、この鹿山から行ける、里外れの森にレッツゴーです」
「うん、何で?」
「そこに魚がいる限り・・俺はこの釣竿を持つってば!」
「で、何で魚釣りするわけ?」
「まあそれは、歩きながら話すさ」
「で、何」
ナルトが先頭に、それに続くようにシカマルが・・歩いている。
既に奈良家の鹿山からは離れているので、鹿は一匹もいない。
ナルトはシカマルに目線をやって、ぽつりと話し始めた。
「・・向こうの川には、よく里外からの魚が入ってくるんだよ」
「それは初耳」
「うん。それで、外には、木の葉の里の魚よりでっかい魚がいるの」
「へー・・」
「だから、そんな大物を釣りたいんだ」
シカマルは無言でナルトの頭上に釣竿を打ち下ろした。
「痛っ!!何すんだよシカマル!」
「何なんだよその理由!おまえは夢見がちな少年かぁっ!?」
「そんなっ、夢見がちな美少年なんて酷いっ!!」
「誰も美少年なんて言ってねぇよ!!!」
ナルトまで釣竿を取り出して応戦する。
段々剣道の試合のようになってきて・・・
とりあえずこれで日が暮れたら嫌なので、ナルトを影真似で止めて、無理矢理終わらせた。
「・・・ってわけで協力してくれる?狐の飯代もバカにならないし」
「・・・・ここまで来ちまったしな」
「わーい、流石シカだね!俺らで川の生態系崩すまで釣ってやろうな!!」
「・・生態系、ねぇ。そんなにデカい魚なら、
案外木の葉の里の川の生態系も崩せるかもな」
「・・・・・・・マジ?」
「ああ。外から持ち込まれた大きい魚のせいで食物ピラミッドが崩れて、
閉鎖的な川や湖の生態系が壊されることってあるらしいぜ?」
「ほほー・・流石俺。ほんのちょっとの遊び心まで
里の崩壊に繋がらせるなんて・・・時々自分の才能が怖い・・」
「さってと、馬鹿はほっとくか」
「あ、待ってよシカー!・・・・・待てこらボケ!!!!」
「誰が待つか阿呆」
そんなこんなでやってきた川。
川・・というより湖とか沼に近い雰囲気だけどな。
ナルトは早速釣り道具を取り出したが・・ん、あれ?
「ナルト・・・それ、釣竿じゃないよな?」
「槍だよ?見てわかんない?」
「何で槍なわけ?」
「魚はこれで獲るんじゃないか」
「釣りじゃないじゃん」
「細かいことは気にすんなよ!ハゲるってばよ」
うわ、こいつに殺意わいてきた。
・・・というか、槍で刺したら死ぬじゃん。
他の川の生態系崩す前に息絶えるって、絶対。
そうつっこんでやろうかと思ったが、ナルトが楽しそうなので黙っておくことにした。
「いや大量大量!」
「・・・そりゃ、あれだけ動けばこれだけ獲れるわなぁ」
「じゃあ早速里中の湖沼を回ろうぜ!!レッツ木の葉崩し!!!」
「あー、まー、うん。行くか」
驚いたことに、ナルトは変化の術を使えた。
俺は奈良家の教育で教えられたけど、ナルトは独学なのかな。
適当に目立たない格好に姿を変えてから、俺たちは街に出た。
最初はナルトもハイテンションに魚を放していたが、
段々口数が減り、最後には黙ってしまった。
「・・・・・・地味だな」
「地味だよ」
狐の食料分の魚を残し、湖沼に放し終えた俺たちは、
脱力したように木の根に座り込んだ。
「ま、千里の道も一歩から。こういう地道な努力が
俺の仕返しの糸口になるってもんさ」
「珍しく前向きな発言だな」
「ってか、もー考えるのも面倒なぐらい疲れたのー」
「じゃ、残った魚は刺身にでもして食べるか」
「できるの!?」
「ふっ・・・・親にパシられ人生の俺を甘く見るなよ・・」
大抵の家事手伝いは完璧にできる自信がある。
ナルトは同情するような目で俺を見ていた。逆にむかつく対応だな。
「おわ!?クソ狐、おまえに刺身なんて十年早いっ!!」
「ギャウギュウゥゥ!!!」
「おい、そんな取り合ってたら危な・・」
ナルトの肘が何かに当たった。
ごと、ぼちゃ。
「いやぁぁぁ、醤油、醤油が!!タイムセールでゲットしたのに勿体無い!」
「あー、煩いナルト!狐が醤油まみれなのは無視か!」
「もったいないもったいない、何なら醤油漬けでこのまま狐焼いたほうが・・」
「ギャウ・・・」
「ちょ、狐!!ナルトが怖いからってこっちに寄ってくるな!醤油付く!!」
「醤油ー!!!!」
←←← →→→