暗部一の実力者、コノトがただの民間人の商人を殺したという話は静かに、だが確実に広まっていた。
上層部の人間はそれはそれは喜んでいるだろう。
正体不明の、先代火影の一存だけで配属されたコノトは、上の連中からは疎まれ、恐れられていた。
強ければ強いほど、いずれ里を転覆させる力を持つかもしれない。
正体がわからなければ弱みを握ることも難しい。
そういったくだらないことを考えていた奴等にとって、この出来事は好機だといえるのだろう。
「コノト、もう一度聞くがお前は誰なんだ?」
そういった質問は、この暗い小さな部屋で飽きるほど繰り返されていた。
俺がだんまりを決め込んでいると、相手はため息を付きながら質問を変えてくる。
「お前と任務をやっている奴、そいつが何者かだけでも言ってくれ」
俺の相棒は同じく正体不明の腕利き暗部。
真剣勝負でも十回に六回は勝てる自信はある。
そりゃ上の連中も気になるわなー。
「知らね」
そう短く答えるとこの親父はポケットからタバコを出した。
ここ禁煙じゃないのか?
美味そうに一本吸い終わるとポケット灰皿に吸殻を入れて向き直った。
「あのなぁ、お前今結構やばい立場なんだぞ?上の奴らもお前から何も情報が
 聞き出せないようだったら始末する気満々だし、言ったほうが身のためだ」
相手を尋問するのには大別して二つの方法がある。
暴力的な手段を取るか、情に訴えるか。
忍びを尋問する場合は大抵前者なのだが、この男は俺に手を出すほどの勇気はないらしい。
同情するような素振りを見せて敵意が無いことを示し、自分を味方だと思わせ情報を引き出そうとする。
賢い選択だが、つまらん。
「五代目火影と、あの側近の人と話がしたい。他を人払いさせてくれれば俺のことも話そう」
男は信じられない、といった表情をしたがすぐにそれを引っ込めて脱兎のごとく出て行った。

「それで、話とは何だい?」
一時間ほど経った頃、綱手とシズネが部屋に入ってきた。
綱手は最初の頃のような柔らかい雰囲気は消し飛んで、まるで敵を見るかのような厳しい眼をしていた。
二人が備え付けの椅子に座ったところでコノトは話を切り出した。
「俺の正体と、俺が何であんなことをしたか、どっちを先に聞きたい?」
「どちらでもいい、さっさとしてくれ」
「んじゃ、俺の正体から。俺はうずまきナルト。あんたのよーく知っている人物だ」
ナルト、という言葉を聞いた瞬間綱手は烈火の如く感情をあらわにした。
「ふざけるのも大概にしろ!!!あの子がお前なんかであるはずがないだろう!」
俺の胸倉を片手で掴み、女とは思えないほど強い力で首を絞める。
シズネはおろおろと止めようかと止めないか迷っている。
「信じてくれないとは思ってたが・・まぁ、そのうちわかるからいいさ。
 綱手さん落ち着いてよ、座ってくれ」
胸倉を掴んだ手を振り解き、綱手は部屋を出ようとする。
「最後まで聞いてくれ」
「狂人の言うことは聞けん」
「どうせ俺はこのまま行けば死罪になる。死に逝く者の言葉を聞いてやるのも慈悲だろう」
駄目もとで俺がそう言うと綱手は、物凄く嫌そうな顔で椅子に座った。
お人好しというかなんと言うか・・。俺だったら帰るぞ。
「で?」
「俺と綱手さんが初めて会ったとき、野宿したよな?」
「ああ」
「あの時の忍びたちは妖魔にそそのかされて襲ってきていたんだ。
 野宿した夜、俺はその妖魔を殺した・・・・が死に際に呪いをかけられた」
綱手はこちらを見ず、怒気を押し込めるような声音で尋ねた。
「まさかおまえの所業はその呪いのせいだというのか?」
「いや違う」
「・・・・・それで?」
俺がつまらない言い訳を始めると思っていたのだろう。
ちょっと拍子抜けしている綱手に微笑んで再び話を進める。
「その時、妖魔は俺にあることを教えた。
 綱手さんは綺麗な花束を貰うと、そしてその中には毒虫がいる、とさ」
「それであの時燃やしたんですか?」
シズネが小さな声で問う。
それに頷いた瞬間、下半身の感覚が麻痺したように感じた。
下を向けば、やはり石化していた。
綱手がそれに気づき、何かを言おうとしたがそれを遮って話を続ける。
「さらにそいつはこう言ったんだ。
 俺に見せてくる犬が、綱手さんの喉元に噛み付いて殺すと。
 ・・・実際、ある犬が牙を向けて噛み付こうとしたから俺は殺した」
俺が言い終わると肩は全く動かなくなり、体も顔と首しか動かなくなった。
そこまできて二人は初めてコノトの異変に気づき、はっとした表情をする。
「そして最後に「コノト、私が悪かったから!もう何も言うな・・!!」
綱手は叫ぶような声でコノトの言葉を遮った。
勘のいい綱手のことだ、これから何が起こるか予想できているのだろう。
コノトは首を振って否定した。
「綱手さんは悪くないよ。でも、最後まで言わせて?
・・・あの商人は、ばーちゃんを暗殺しようとしていた」
言葉を言い終えると同時にコノトは眼をつぶり最後の最後で
あの仏頂面な同い年の少年を思い出した。
(何も言えずに消えちまうのか。ごめん・・・・・シカマル)








誰にも頼らずその小さな手で大切な人を守りきった少年は、物言わぬ石像と化した。