あれ以来火影の執務室でぼーっとしている綱手様を見るのは珍しいことではない。
私も最近では気が抜けている、と言われることが間々あった。
気を紛らわそうとお茶を入れて部屋に入ると綱手様は窓からアカデミーの方を見ていた。
コノトさんが自分はナルトだ、と言った時私も信じていませんでした。
でも、彼が石になってしまって急いでナルト君を探しに行ったんです。
もしかしたら嘘じゃなかったのかも、と思って。
ナルト君の家にも、ラーメン屋の一楽にも、商店街や訓練場、アカデミーにもいなかった。
今は修行していないことにしてもらったり、たまに(少しばかり)事情は話してカカシ上忍に変化して
もらったりで同期の子や周囲にはナルト君の所在を追及させないようにしているんです。
もう一方で、あの呪いを解く術を調べているんですがなかなか難しくて。
妖魔の呪いを解く術は沢山あり、症状によってパターンも決まっています。
だけどあまりに膨大な量で一つ一つ調べているがまだまだ時間がかかりそう。
私はできるだけ、暗い顔をしないように心がけて綱手様に近づいた。
「綱手様、お茶もって来ました」
「あぁ・・・ありがとう」
窓から離れ、上等なソファに座り温かいお茶を飲んでいても雰囲気は暗い。
「コノトが、自分はナルトだと言った時、私は信じないで狂人だと罵った」
「しょうがないですよ。あの状況じゃ誰だって・・・」
「最後に、ばーちゃん、って言われたとき、やっとナルトだってわかったんだ」
頬から流れ出る涙を綱手は袖で強く拭い取った。
「泣いている暇は無い。私はあの子に償わなければならない。そのためには・・」
「わかってます、これから調べに行くところです」
「悪い、ね。私も一緒に調べたいんだが・・」
「駄目ですからね!ちゃんと綱手様は火影としての業務をこなしてください!」
シズネが特書館に入ると、涼しい風が吹いてきた。
何かの結界を張っているらしく、ここはいつも快適に過ごせるよう自動調節されている。
中は昼間であるというのに誰もいない。否、一人だけしかいない。
ここの管理をしているらしい男で、最近は大量の古書を一冊ずつ調べ、
乱丁や破れを見つけると丁寧に修繕している。
『貸し出しのときだけ話しかけてください』
と達筆な字で書かれた紙がカウンターに張ってあり、実際人が来ても全く気にしている様子はなかった。
呪術関係の本は禁書なので持ち出し禁止になってあり、話しかけることも話しかけられる
こともなかったが今日は少しばかり違った。
向こうから話しかけてきたのだ。
「火影様の側近の方ですよね?最近毎日のようにここに来ていますが、何をお探しですか?」
元々綺麗な顔立ちだとは横顔から知っていたが、真正面から見ると改めてそれを再認識させられる。
思わずうろたえてしまった。
「あ、その・・・妖魔の呪いの解呪方法を調べていて」
「はー、どんな呪いかけられたんですか?」
「ある特定の情報を喋ると部分石化するもので」
それを聞くと、青年は席を立ってある棚のところまで連れて行く。
そこから一冊の分厚い辞典の様なものを取り出し、最初のページに挟んであった
何か書いてある紙にチャクラを流し込む。
それを表紙に貼り付けて、彼はページを捲り初めた。
大抵の禁書には難易度は色々だが暗号や数式の類の紙が貼り付けてある。
それを解かないと本は読めない仕組みになっている。
シズネ自身も何度も解いたことがあるが、ここまで手際よく解く人物はそうそういないだろう。
「ほら、これじゃないっすか?」
そう言って指し示したページには確かに石化に関する様々な解き方が載っていた。
「あー、ありがとうございます!!!良かった、思ったより早く何とかなりそう・・」
「何か知らんがよかったっすね。それじゃ」
「はい、本当にありがとうございます」
「綱手様―!!解呪の方法がわかりましたー!!」
どたどたと忍びらしからぬ大きな音で走ってくるシズネを注意しようとしたがその言葉で怒気が逸れた。
肩で息をしながら入ってきたシズネを掴み揺さぶる。
「で、どうやるんだ!?早く言えー!!」
「ぐ、ぐるしいでず・・ごほ・・あのですね、血が、必要・・・なんです」
強く締めすぎたらしく、顔が真っ青になったシズネを慌てて放した。
「血?」
「はい、しかも一番大切な人の血じゃなければいけないらしくって・・」
「私たちじゃないだろうが、一応やってみるか」
頷くシズネを連れて地下の隠し部屋に早足で向かった。
幾つかの仕掛けを外し中に入ると、真ん中に石像が置かれているのが見えた。
綱手がクナイで手を軽く切り石像に垂らす。
血液恐怖症は克服できたわけではないがそれでも自ら手を切った。
それだけナルトのことを思っているのだろう。
続いてシズネも同じことをするが戻る様子は無かった。
「やっぱり私たちじゃないですね・・・誰でしょうか」
「ナルト君がすっごく大切にしている人、何か言ってませんでしたか?」
記憶を辿るがなかなか思い当たらない。
シズネも必死で考えるが、自分よりも綱手のほうがナルトにもコノトにも接していた。
「ああ、あいつは任務だけの仲じゃない。俺の片割れだ」
ふと、綱手は初めてコノトに会った日の会話を思い出した。
「・・・・・・・あ、カノコかも」
「・・・・・・・・・・・・・・・・正体不明じゃないですか!!!」
ぽんっ、と綱手は爽やかな笑顔で手をシズネの肩に置いた。
「頑張って探してくれ」
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