俺は逃げている。
戦うことは無意味だと思っているから。
家や、人通りの多い町へは行かないほうがいい。
きっとこちらより多くの自分を狙う忍者がいるから。
大声を出して助けを呼んではいけない。
相手に自分の位置を知られてしまうし、
何より・・・・・・相手が木の葉の忍者じゃな!!









「で、おっさんは四日前のこととは関係ないわけね?」
シカマルは影真似で捕まえた男に話しかけた。
奪ったクナイを突きつける、というオプションがあるが。
「よ・・四日前?知りません!!」
切っ先を眉間に合わせ、切れない程度に押し付けて問い直す。
「それじゃあ何で俺を襲ってくるんだ?」
「・・・・・・・・・・・・えっと」
「何?」
「・・・・・・・・・・・・」
無言になったので、更に強く刃を押し付けると男は慌てて喋った。
「あんたが!!・・あんたが九尾の狐の器だって言われているから!!!」
「・・・・・・・・・は?九尾の器?それって確かあの金髪の子供じゃなかったのか?」
「それは火影の上層部が器を隠すためのガセだ・・・ったらしい」
とりあえずクナイを引いたので先ほどよりは元気を取り戻した。
シカマルの顔が明らかに怒気をはらんでいることに気づいていない。
「・・・・で、あんたらは情報の確認もせず俺を襲って」
影真似が解かれた。
シカマルは変化の印を組んで青年ぐらいの背格好に変化した。
「・・その様子じゃ、あんたらあの金髪で今まで憂さを晴らしてきたわけだ」
シカマルがクナイを自分のポケットにしまい男の顔を睨んだ。
「ふざけんな!!!!!」
見事に男の顎にシカマルの拳が命中し、男は狭い道から外れて落ちた。
横の田んぼに泥まみれで倒れた男を見届けて、シカマルは家に帰ることにした。
くるりと身を翻すと、人が立っていた。
気配も何もしなかった。
赤い髪の男だ、先ほどの男よりはずっと若く、背も高い。
糸目で、自分と目が合ったとわかると更に目が細くなった。
「こんにちは、シカマルくん」
先ほどのやり取りを見ていなかったかのように、優しい声音だった。
自分を襲ってくる気配はないが、油断せず相手と距離を置いた。
「・・・・・・こんにちは」
「凄いね、流石奈良上忍の息子さんってとこかな?」
「親父を知っているんですか」
「あぁ、大変世話になったからね」
『世話』というところで語調を強めた。
あまりいい意味で世話になったわけではないようだ。
「・・君は、面白いよ」
「九尾のことも知ってるみたいだし、年だって幾つ?
 3歳過ぎたくらいで変化の術を使いこなせるなんて・・将来有望だ」
次々と言葉を重ねているが、どれもこれも薄っぺらく聞こえる。
自分への賛辞ではなく、独り言のようなものなのだろう。
「なぁ、あんたが俺のこと九尾の器だって言ってるんだろ?」
シカマルがカマをかけて尋ねるが、赤髪の男はどうでもいいことのように頷いた。
先ほどの男のせいもあるが、日はもう暮れかけている。
とりあえず噂の発信源がわかったのだし、シカマルはもうとっとと帰りたかった。
「あの、何でそんなことしたかは後で聞くんで、帰っていいですか?」
「帰ってしまうのかい?それは困る。君とゲームをしてないからね」
「ゲーム?」
この男は大丈夫だろうか?
何で自分がゲームに付き合わなければいけない、大体九尾のことだってそうだが、
この男が何をしたいのかよくわからない。
「そう、追いかけっこだ。僕が鬼だ。1分だけ時間をあげるから隠れるなり
 遠くへ逃げるなりしてくれ」
「ちょっと・・」
待て、と言おうとすると男の腕が横に動いた。
次いでギィンと何かを弾く音がした。
男の放ったクナイが、倒れている忍者の首に巻いてある額宛に当たったのだ。
横に落ちたクナイは泥と水とともに沈んでいった。
「俺が君を見つけたら、今と同じ事をする」
額宛などしていない自分が同じ事をされたらどうなるか、そんなの考えなくてもわかる。
「今から1分後、ゲームスタート!」
俺はすぐさま森に入った。







「俺の息子があの九尾の器だって?」
一度しか共に任務をしたことはなかったコノトにいきなり呼び出され、
行ってみるとそんなことを言われた。
「あぁ、なんか最近一部の忍者の様子が変でさ、調べたらそういうことらしい」
冗談かとも思ったが、そんなことを言うような奴でないことはわかっている。
「奈良上忍、心当たりない?」
そういうことを言われるような恨み、と呟く。
俺は丁度不審に思っていた元部下のことを話した。
「ああ、あいつ・・確かにそういうことするかも。
 ・・・・奈良上忍、俺はあいつと息子さん探してみるから、あなたは」
「噂の鎮圧?」
「そう」
お願いします、と言って消えたコノトに頭を掻く。
こっちこそ、後で礼をしなきゃな。
わざわざ息子の危険を教えて、しかも手助けしてくれるとは、
・・あの無愛想な顔とは裏腹にお人好しなのかもしれない、あの駆け出しの暗部は。