辺りを窺うが何もわからない。
あの赤髪の男から最初に逃げ出してから随分経っている。
日はとっくに落ち、奴の気配を探ろうとしても森の獣たちのものと紛れてわからない。
・・相手が今までの敵よりもずっと強いということもあるのだが。
シカマルは隠れていた茂みから頭を出し、周囲を確認してから立ち上がる。
分身を四体作ってバラバラに行動させたがそのうちの二体は破られた。
チャクラの無駄と判断したシカマルは最後の一体を消し、変化も解く。
肩から血が流れている。
先ほど、投げられたクナイによるものだ。
本当にゲームとして楽しんでいるらしく、俺が逃げてもあえてすぐには追ってこなかった。
とことん、腐っている。

俺は上忍待機所に足を向けて、気配を出来るだけ消して歩き出す。
親父を一発殴って、ついでに助けてもらうつもりだ。
・・大体ちゃんと処理をしないからこうして息子にとばっちりが来ているんだ、
それぐらいしても罰はあたらないだろう。
まぁ・・・・生きてたら、だ。



気配も消さず、どうどうと森の中を歩いていくと目の前に赤い髪の男が現れた。
奈良家の所有地にこいつがいるということは、おそらく息子もここにいるはずだ。
「なんだ・・・その面は見覚えねぇ・・新人暗部か?」
「そうです、あなたはこの前免職され」
言いかけたところでクナイを投げつけられた。
勿論避けたけど。
「うっせ、てめぇは何でこんなとこにいるんだ」
「あなたは何しに来たんですか?」
「・・本当の九尾の器を狩りに来たんだ。知ってたか?本当の器はあの金髪のガキじゃなくて
 奈良の家の息子なんだぜ!」
あぁ、俺にも協力しろってことか?
ばかばかしい、何の根拠もないこんなくだらねぇ嘘をよく他の奴らは信じたな。
馬鹿ばっかりじゃん。
「なるほど、でも俺がここにいるのはあんたを止めるためですから」
クナイを持って駆け出した俺に男は不敵な笑みを浮かべた。
馬鹿だな。
あんたがいくら強くたって、上には上がいるんだぜ?




鳥の大群がある一箇所から羽ばたいていったのをシカマルは気づいた。
自分が歩いている進路と丁度ぶつかり合っている。
避けて通れることもできるがあえてそのまま行くことにした。
戦闘があったのならば、もしかしたら味方かもしれない。
警戒しながら走っていくと、男が二人いた。
一人は、あの赤髪の男でもう一人は見知らぬ狐面の暗部だった。
様子を見るとどうやら決着はついていたらしく、いきなり赤髪の男は前のめりに倒れていった。
敵か見方か、未だに判断しかねているシカマルにすたすたと暗部は近づいてきた。
「・・あんたが、奈良上忍の息子か」
確信しているようだが、シカマルと距離を置いている。
今のシカマルは動きやすいよう一回り分ほど年を重ねた姿だったからだ。
「さぁどうだか」
「俺はコノト。奈良上忍の息子を助けに来たんだが、あんたがそうか判断しかねる。
 変化を解いてもらえないか?」
「俺はコノトが狐面の暗部だとは知っている、
だが、あんたがコノトかどうかも、ついでに言うと俺を助けようとしているのかどうかも判断できない」
「何で知ってんだよ!」
「親父が腕がいいって褒めてたぜ?」
「・・そりゃ、ども」
それからしばらく沈黙が続く。
お互い相手の出方を窺っているようだ。
先にコノトが口を開いた。
「で、どうすりゃあんた、俺のことコノトだって信じてくれるんだ?」
「あんたも変化を解除する印を組めよ。狐面が残ってればあんたは本物だ」
うっ、とコノトがうめいた。
面を被っていて見えないが、きっと今の表情はさぞ苦々しいものなのだろう。
「何かやましいことでもあるのか?」
「・・・・・・・・・わかった、組む」
コノトが印を組み始めた、かなり早いスピードだ。
シカマルも後に続いて印を組み始める。変化をしていないものがこの印を組んでも何も発動しないが。
ぼんっ、とコノトから煙が出た。
その中から現れたのは狐面をつけた金髪の子供だった。
下は普通の半ズボンだが、上はぶかぶかの暗部の服を着ている。
どうやら、下は変化で暗部服に変えていたようだ。
「・・・狐面はあるし、本物のコノトらしいな」
「あんたもな」
子供は面を取って、じっとシカマルの顔を見た。
「あ、おまえ蹴られてた奴か!」
「・・・覚えてたか」
「おまえ俺と同じくらいの年だろ?暗部なのか」
「新人だけど期待の星」
子供がそう言って座り込んだので、シカマルは近づいた。
特には咎められなかったのでその隣に腰掛けた。
「自分で言ってりゃ世話ねぇ」
「とりあえず、俺のこと知っちまったから記憶は消させてもらう」
「か弱い男の子にそんなことするなんて、罪悪感はないのか?」
「か弱い男の子は自分を襲ってきた忍者を返り討ちになんかできません」
ふむ・・・・とシカマルは考え込んで、目を細める。
「・・・じゃあ俺も消す」
「あ?」
「おまえだけやるのはフェアじゃねぇだろ。俺がおまえを忘れるならおまえも俺を忘れろ」
「なんなんだよ、フェアって・・・」
「なんか、また会える気がするんだよな。次会ったときおまえだけ俺のこと知ってたら寂しいだろ?」
「会わねぇと思うぞ。って誰が寂しいだと!!?」
「まぁ落ち着け。・・で、この条件はどうですか?」
シカマルが聞くと、子供は小さくため息をついた。
「おい、名前教えろ」
「奈良シカマル。おまえは?」
「うずまきナルト。・・・シカマル、俺は印を組むスピードを合わせてやるなんて優しいことはしねぇぞ?」
「上等」
二人は向き合いながら笑った。






あの噂を知っている奴らを潰している。
コノトから聞いた奴らを脅して、知っている奴を聞き出した後に術で忘れさせるだけだが・・
噂というものはなかなかよく広がっていて、あまり効率的でないがこの際しょうがない。
「・・・・俺がシカマル助けに行って、こっちはコノトにやらせりゃよかったぜ」
哀愁漂う背中を、ぽんと誰かが叩いた。
「山中に秋道・・」
同級の友が笑っていた。どうやら任務を終えた後らしい。
秋道の服に僅かに土がついているが二人とも外傷はないらしい。
「よ、どうしたんだ?随分覇気がねぇじゃん?」
山中の笑いに、ピンとあることが思い浮かんだ。
「おい、おめぇら手伝え!」
「は?どうしたの、奈良」
「いいからこっち来い!!」







おまけ