大嫌いなトランペットと朝の風景。



昔、飽きっぽい母親に押し付けられたトランペット。
できるだけ丁寧に扱っているのだが、どうも調子が悪い。
一度全部バラして総洗いした方がいいのだろうか。
あまりよろしくない時に酷使すればより酷くなるかもしれないので
演奏を中断しようとして、はたと気づいてやめた。

白鳩たちが旋回しながらキラリとこちらを伺っていた。



トランペットを吹いた後に餌をやる、なんて習慣をつけなければよかった。


ヤツらは音が止まった瞬間に猛スピードでこちらに向かってくる。
餌という身代わりがなければ、人肉を食いそうな勢いで凶悪に突いてくるから困りものだ。
まず演奏を止めるなら餌の傍に、と移動しようとしたとき、急に人の気配を感じ た。


「誰かいませんかー?」
「あ」
「やっぱいた!トランペットの音色がしたから、絶対いると思ったんだ」

顔だけひょこりと屋根から出した金髪。
澄んだ空なんかよりよっぽど青い瞳に、思わず惹きこまれる。
そういえば、彼はずっと眠っていたから、眼なんか見れなかった。
その青い眼よりかは幾分くすんだ色をした飛行石のペンダントも
変わらず彼の胸元に堂々とかけられている。
飛行石も、それに刻まれたラピュタの紋章だって
見る人間が見れば血眼を変えて欲しがるものなのだが……
彼には自覚がないのだろうか?
それとも、絶対に盗られないという自信の表れか。

「えっとね、俺は」

一旦言葉を切って、梯子を上がりきって屋根に立つ金髪。
気のせいか、さっきからバサバサと嫌な音がする。
何故?俺は今、予期せぬ来訪者の存在で何か重要なことを忘れていないか?



例えば、トランペット、止めた、よな?






「金髪!!そこの袋の中身ぶちまけろ!!!んでもって伏せる!」
「えっ??い、いいの!?」

尋ねながらも迷い無く近くにあった袋を引き倒した金髪の判断力に、少し関心。
袋に詰められていた鳥用の雑穀が、ばらばらと飛び散る。
瞬間、伏せた自分の背に『何か』が勢いよく通過した。



「う、わぁぁ……………………………これ、鳩?」
「それ以外に何に見えるんだ」

ある意味猛禽類。
草食だろうが愛玩用家畜だろうが、
本能に忠実な動物は概して人間の手には負えない生命体となり得る。
コレに手ずからで餌をやる勇気のある奴がいるならば、是非とも譲ってやりたい。
いつからこんな凶暴になってしまったんだろう、こいつらは。



「………ま、それは置いといて。自己紹介とか、していい?」
「ああ」
「ごほんっ。俺は、うずまきナルト。
 助けてくれたのは君でしょう?ほんっとありがとね。
 お礼は……できるかわかんないけど、まず君のこと教えて欲しいな?」

よく喋り社交的。だがその割にはこちらを観察しているような態度。
いざとなったらすぐにでも脱出できるような間合いのとり方。
素人にしてはさり気なく、かつ慣れている。

「俺は奈良シカマル。おまえ、どういう状況でここに着たかわかるか?」
「……全然」
「空から降ってきたんだ」
「う、うっそ〜!!?」
「おまえが、嘘苦手だってことはよくわかった」

そこそこに腹が膨れたらしい鳩たちから、餌袋をひったくる。
放っておいても勝手に小屋に戻るのは、煩わしくなくていい。
唇を真一文字に引き結んで黙りこくるナルトを置いて、梯子に足をかけた。

「飯食うぞ?降りてこいよ」
「……何も、聞かないの?」
「聞いていいなら、後で聞く」


俺は、そこで梯子を降りてしまったので
しばらく屋根に留まっていたナルトの呟きは聞き取れなかった。





「奈良、シカマルかぁ…………かーっこいい」

頬を染めて瞳を輝かせるナルトを見なかった俺は、幸せだったのだろうか?




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