「先に顔洗っとけよ。洗面所は下にある」


清潔なタオルを渡されて階段を下りると、開けた部屋の片隅に洗面台があった。
とても広い部屋のほとんどは、小型飛行機の骨組みで占められている。
小型、と言っても、とても大きいのだけれど。



飛行機の片翼をくぐって、洗面所に抜ける。
水道の水は、錆も消毒薬の味もない、普通の水だった。
でも、その『普通』を確保するのが案外難しいものだ。
見かけは質素だけど、随分と恵まれた家だと思う。

ふかふかのタオルに顔を埋め、来た道を戻る。
この地下室には、随分と航空関連の資料が置いてある。
つい、書棚に寄り道をして、興味のままに本を手にとって読みふける。


「………………写真?」


手に取った一冊の中に、裏返しの写真が挟まっていた。
しおり代わりに使っていたのかもしれない。
シカマルが来ないか確認した後、写真を手に取った。



分厚い雲の写真。
が、その雲の隙間から、大きな、島が、移りこんでいた。
島と言っても、城まであるのだから、『国家』というべきか。

「ラ、ピュタ……」




「いつまでも上ってこねーと思ったら、何見てんだよ」



いきなりの背後からの声。
うっそ、全然、気配しなかったのに!


「ご、めん」
「別に。その写真がどうかしたか?」

「いや、何でも、ない」



シカマルは、俺から写真を取り上げてつまらなそうに眺めた。



「俺の親父がさ、ソレについてよく調べてたんだ」
「へえ……」
「ただの妄想。黙ってりゃいいのに、散々世間に存在を訴えかけて。
 結局、詐欺師扱いされて死んじまった」
「……………」
「お前は、あると思うか?」
「………うん」


ぎゅっと、胸のペンダントを握り締めた。
シカマルは気づいていなかったのか?
父親だけが研究をしていたようだから、無理も無いが。









朝食は、簡素だけれどとても美味しかった。
バターをたっぷり塗ったトーストを口いっぱいに詰めて食べていると、
シカマルがじっとこちらを見つめて、尋ねた。

「それで、お前はどうして空から落ちてきたんだ?」

ちょっとしたやり取りで分かってしまったが、こいつ、頭が良い。
嘘をついて誤魔化しても、すぐにバレる。
まあ、理解が早い分、こちらに深入りはしないだろう。

「実は、軍に拉致られてたんだよね」
「……………軍?」
「そう。で、別の海賊も俺を狙ってて、
 そいつらが戦ってる間に、逃げようとして、落ちたの」
「そりゃ、随分と危険な旅路だな」

ラピュタのことは、できるだけ伏せて喋ったつもりだ。
知らないなら、深く関わるべきじゃないし。

ちらりと窓を眺めると、遠くに追っ手の姿が見えた。

「んじゃ、もう奴ら来やがったし、そろそろお暇します」
「どっちの方だ」
「海賊」
「逃げるんだろ?」
「うん」
「よし、行くか」


うん、行かないと。



って、あれ?




「はい?」
「だから、逃げるぞ」
「な、何で!?」

シカマルは、クローゼットから自分の衣服を押し付け、手早く自分の荷物を準備する。
俺も、変装は好都合なので、有難く服を着込む。

「街なら幾つか逃走手段がある。
 大体、見知らぬ金髪青目が街に一人でいたら、絶対浮くだろ」
「あ、うん。ありがとう……って違う!理由、聞いてるの!!」
「…………まぁ、理由は色々なんだけど」
「だけど?」


「ラピュタを悪用する奴らは、好かん」






最初っから隠してたのバレてましたね、はい。












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