朝っぱらから子ども二人に絡まれた。
しかもかなりしつこく。

煙草なんて買いに出るんじゃなかったと、少し後悔した。


「だからそんなガキ知らないって言ってるじゃねぇか……」
「か、隠してたら、容赦しねーぞ!」
「いや、本当に知らないんだって」

先ほどから繰り返される会話。
どうすれば納得してくれるのだろうかと、
とりあえず目の前の目つきの悪い少年の頭を撫でた。

「撫でるなー!!」
「悪い悪い」
「キバぁ、落ち着きなよ。お菓子食べる?」
「食べねぇよ!っつうかチョージはもうちょっと緊張感持て……って赤丸?」


キバと呼ばれた少年が抱いていた犬が、ふいと彼の腕から飛び降りた。
軽くワンと鳴いた先で、少年が二人こちらに駆けてくるのが見えた。


「ああ、おっさん。あれぐらいの背格好なんだ。んで、金髪青目」
「ふーん。ありゃシカマルだな。珍しい」

彼が朝早くから町にやって来ることは、あまりない。
しかも連れがいる。
久しぶりだと声を掛けようとすると、町の大通りに強い風が吹き込んだ。
この時期にはよくあることだ。帽子が飛ばないように軽く手で押さえる。

見覚えのないシカマルの連れは、
あまりこの地域の風に詳しくないらしく綺麗に帽子を飛ばしてしまった。


「そう。あんな感じの明るい金髪で、あれぐらいの短髪………ってあれだよ!!」


犬連れの少年が思いっきり指を刺す。
隣で暢気に菓子を食べていた少年も、軽く頷き、二人を迎える体勢を取る。


「アスマ!そいつらは空賊の仲間だ!」
「はあ、まじで?」


こんな子どもが?にわかには信じられない。
が、それ以上にシカマルが無意味な嘘をつくとは思えない。

「こいつのこと、狙ってるんだ」

隣を走る金髪の少年が、何ともいえない目でこちらを見ていた。
あれは、そう、どうやって敵を排除するか、冷静に見定めている目だ。
その冷たさに、背中がぞわりと震えた。

「お、シノとサスケが追ってるのか………よし、挟み撃ちだ!」
「おいおい。遊びはそのへんにしとけ」

こちらまで被害を被ってはたまらない。
背後から空賊の子ども二人を脇に抱え、大通りの端に寄る。

「ほら、シカマル。さっさと家入っちまえ」
「サンキュ、アスマ」
「………あの、ありがとうございます」
「いいってことよ」

金髪の礼には及ばない。
自分が守ったのは、彼らではなくむしろ、空賊のこの子どもたちの方だろう。
シカマルたちが家の中に入ったことを確認し、抱えていた二人を放す。
彼らから、ドアを背で隠すようにして立ちふさがった。










「迷惑掛けますイルカさん、サクラ」
「気にすんな。これからどうするんだ?」
「今の時間なら、裏口から出ればネジの汽車に合流できるんで」
「その子を連れて?」

イルカが心配そうにナルトを見やった。

「そのつもりです」
「……………………シカマルも成長したなぁ」
「はい?」
「いや、まさか久しぶりに先生のとこに来たと思えば、
 彼女連れだろう?びっくりしたぞ」
「いや、あの」
「そんな。彼女だなんて…………ふふふ!」
「ちょ、ナルトくん!?」
「バカップルはさっさと出てって」
「待て、俺だけなのか?前提条件が間違ってると思うの!!?」
「ちゃんと守ってやれよ〜」

微笑ましそうな生暖かい目で俺たちは裏口に押し出された。
悪ふざけはやめろ、とナルトに無言で訴えてみたが、
目の前の少年は周囲に花を散りばめて頬を桃色に染めていた。
………………俺がおかしいのか?








「だから、通せよ!俺らが用あるのは金髪だけなんだって!!」
「んー、悪いなぁ。ちょっと無理だわ」

何回繰り返したか知らぬ押し問答。
そろそろシカマルたちも逃げただろうか。
四人のチビッコ空賊たちを宥めつつ、次の行動を考えていると、
背後のドアがそっと開いた。
出てきたのは、同居人のイルカだ。

「もう、アスマさんったら。子どもは苛めちゃだめですよ!」
「………いや、なんかこいつら空賊らしいし」
「それは中から聞いてました」

イルカは、子どもたち四人の顔を順々にじっと眺め、力強く頷いた。
こういう自信たっぷりのイルカの行動は、大抵突拍子がない。心の準備が必要だ。

「よし。お前ら、まずは学校行くか!」

ほらな。

「「「「はい?」」」」
「空賊なんてヤクザな仕事だしな。
 この町は就職のシステムがしっかりしてるから、
 今からちゃんと勉強すれば、働き口も色々あるぞ?
 保証人は俺とアスマさんでちゃんと面倒見るし、大丈夫だ!!」

いっぺんに捲くし立てられ、哀れな子どもたちは混乱していた。
そりゃ、いきなり空賊に向かって「学校に通え」は無いよな。

「え?うぇ?」
「さ、まずは書類の申請に行こうか」

呆れる俺。真面目なイルカ。哀れなガキども。
そこに、更に第三者の怒鳴り声が割って入ってきた。

「くぉら、てめぇら何チンタラやってんだい!!!」
「げ」「うわ」「「ママ!」」

ここらへんでは珍しい、オートモービルを全速力で走らせる妙齢の女性。
彼らの会話から察するに、空賊のボスなのだろう。

「ったく使えないねぇ!!あいつらはとっくに裏口から逃げちまったよ!!!」

さっさと乗りな、と顎で指図し、再び車を走らせる。
口を挟む隙も無く、あっという間だった。



「あー、学校は……!」



名残惜しげに就学を薦めるイルカは無視し、
ひとまず煙草を買いに行こうと思った。

シカマルはよくわからんが面倒なことに巻き込まれているらしい。
心の中で応援ぐらいはしておこう。









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