「……浮いてる」
「うん、浮いてるね」
「…………」
「……………」
ここで黙られると、ちょっと、気まずいなぁ。
「い、意外に、冷静なんだな。シカマル」
「まぁ、一回見たし」
ふわふわと緩やかに落下していく。
自分一人でしか使ったことがなかったからちょっと不安だったが、
子どもがもう一人増えたぐらいじゃ、飛行石の力に影響はないらしい。
「このまま下に行くか」
「うん」
お互い両手を繋ぎ、輪を作る。
どきどきする、というより、安心する。
目を閉じて体の力を抜くと、谷風が頬に当たって心地よかった。
やっと床のある場所にたどり着くと、自然と飛行石の光は消えうせた。
完全な闇に包まれる前に、シカマルが素早く携帯ランプに火を灯す。
岩盤の通路だ。木材の支えと、古いランプが置かれているのが見えた。
「坑道、だな。今は使われてないみたいだが」
「へぇ。初めて見た。道、わかる?」
「何とかなるだろう。多分」
木材に記された矢印と数字を確認して、シカマルは頷いた。
しばらく歩き回ったけど、まだ出口は見えてこない。
最初は物珍しくて楽しかったのだけれど、
行けども行けども味気ない岩盤しかないことに改めて気づくと、もうだめだ。
小さくため息をつくと、目敏くシカマルが気づいた。
「疲れたか?」
「え?いやー………うん」
そういうことにしといた。
なんか、こんな風に気遣われるのが嬉しかった。
「じゃあ、休憩するか」
都合よく、拓けた場所に出たので、水気のない岩に座り込んだ。
荷袋から出されたパンと林檎を半分に分けて、もさもさ食べる。
こういうの、ピクニックっていうの?うまい。
食べながらだと会話も弾む。
「ゴンドア?じゃあ、随分北側の山奥に住んでたんだな」
「うん。親が死んじゃっても畑と家畜は残してくれたし、何とか生活できてた」
「で、ある日軍部が来て、誘拐ってわけか」
「ごめんね。巻き込んで」
「……………………あんま本気で悪いとは思ってないだろう」
「ふふふ!」
適当に誤魔化すと、シカマルが渋そうな顔になった。
あんまカワイコぶらないほうが好印象だな。うん。
この話題を続けるのはあんまりよろしくないと判断。
折角だし、シカマルの生活のことを聞こうかな。
俺と同じで両親、もういないみたいだし。
「ねぇ、シカマルの両…………」
「…………」
お互い、黙り込む。
何でこういうときに、来るのかねぇ。
こつん。こつん。と硬い靴音が周囲に響き渡る。
ランプを隠し、そっと岩壁に背中を押し当て、息を潜めた。
靴音が、止んだ。
「誰だ」
「…………その声、その顔…………シカマル?」
「げ、大蛇丸……」
「うふふふ、幻覚症状かしら。あら、そっちには金髪君?」
「へ?」
「ああ、欲望がとうとう視覚にまで現れたのね。くくくくく」
色白の、おじさんともお兄さんともつかぬ細目の男。
正直、カカシと似た雰囲気がある。
「…………シカマル。このヤバイ人、知り合い?」
「できれば否定したい。なあ、大蛇丸、いい加減現実に戻って来い」
「あら、幻覚じゃなかったの?何かしらシカマル君?」
ゆらりと近づいて、口元を吊り上げる男。
蛇みたいだ。なんか、敵じゃないってわかっていても、距離を取りたい。
それはシカマルも同じらしく、決して自分からこの男に近づこうとはしなかった。
「俺たち迷ってんだよ。人の出入りが薄い出口を教えてくれ」
「お安い御用よ。大変そうね、ご飯でも」
「飯は食ったからいいよ」
「そう。じゃあ、石たちの声も聞いて癒されましょう」
「悪ぃ、それもいらねぇ」
問答無用で断り続けるシカマルに、大蛇丸は少し、気分を害したみたいだ。
「ちょっと。ここは飛行石の秘密が一部明かされる重要イベントよ?」
「イベントってなんだよ。話したいことがあるなら、さっさと手短に話せ」
「ここら一帯の岩盤は、飛行石の原石が混ざっているのよ」
「へー」
「だから、光源を全て消せば、飛行石本来の淡い発光がまるで星屑のように輝くの」
「ふーん」
「……………」
「……………」
「ランプを消したりいないわけ?」
「ナルト、見たいか?」
「俺のペンダントも飛行石だし、別にいいや」
「ってわけだ。さっさと出口を教えろ」
どうしても、パターン行動を省略しようとするシカマルに、
大蛇丸は更に気分を害したみたいだ。
それでも、こほんと咳をして仕切りなおし、改めて俺のペンダントに視線をやった。
「あら、これは飛行石の結晶じゃない?!
かつてラピュタの民だけが結晶化する技術を持っていたと聞いたけれど……」
「何気に説明口調だってば」
「うるさいわよ!」
オカマさんはそれ以上説明はしなくなって、
無言で出口に案内してくれた。
賑やかに話しながら歩いていたせいか、あっという間に辿り着いた気がする。
「あんたたち」
扉を開けて、目に痛い光を差し込ませながら、オカマさんがこちらを見た。
「ラピュタに行きたいとか考えているなら、やめておきなさい」
「え?」
光の中に追いやられると、もう、坑道は濃い闇の穴にしか見えなかった。
そこから、ぬっと大蛇丸が顔を出し、長い舌をチロチロと動かしながら笑った。
「私も昔研究していたけれど、アレは人の手に負えないわ」
言いたいことだけ言い放ち、
こちらが反応する前に出口は閉じられてしまった。
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