「うー………眩しい」

ぽつりと呟くと、日陰に入ればいいとシカマルの声が聞こえた。
言われたとおり、一番近くに立っていた背の高い広葉樹に身を寄せた。

見渡す限りの草原と大きな青空。
肺いっぱいに新鮮な空気を吸い、ゆっくり吐いた。
やっぱり外が一番だ。

後ろから、のんびりとシカマルが歩いてくる。



「にしても、びっくりした。
 俺、ラピュタなんて知ってる人間ごく少数だと思ってたから」
「ああ。っつっても、研究者と政府の一部を除いてほとんどの人間が、
 御伽噺の空島としてしか知らないけどな」
「ふーん」

確か、シカマルの父親はその『御伽噺』で辛い目にあったと聞いた。
自分の知らないところで、ラピュタが世間に強い影響を与えているのだと、初めて知った。

『アレは人の手に負えないわ』

先ほどの、大蛇丸の言葉が脳裏に浮かぶ。
よく考えてみれば、本当に、自分はラピュタについて何も知らないのだ。



「あの、さ。シカマル」
「何だよ」
「俺、どうすればいいと思う?」
「ん?」
「逃げて逃げて、どこに逃げればいいのかな。
 ラピュタに行くのは、危ないって、あのオカマさんは言ってたし……
 俺、これからどうすればいいんだろう」
「………………さあな」


少し、後悔した。
深入りしないようにと決めたのは自分なのに、
この発言は完全に、シカマルに依存しているものだった。
自分の問いが恥ずかしくなって俯くと、シカマルは軽く頭を撫でた。


「でもよ、ナルトの好きなようにしていいんじゃねぇの」
「……好きなように?」
「逃げたいならどこにでも逃げりゃいいし、
 追っかけてくる敵を潰したいなら潰せばいいし、
 ラピュタ行きたいなら行けばいい」
「そんな」

そんな簡単なことじゃない。
そう言おうとしたのに、更にシカマルの言葉に遮られる。


「俺も手伝ってやるからさ」





日陰で涼んでいたのに、顔がとてつもなく熱を持っているのが、自分でもわかる。
衝動のままに、勢いよくシカマルに抱きついた。

「シカマル大好きっ!!」
「うわ、ちょ、危ね」

もう少し、一緒にいられる。
たったそれだけで、今、自分の不安要素が全て取り除かれるような爽快さを感じた。
二人なら、本当になんでもできる気がするのだ。誇張も過信も一切なく。



ずっと抱きついてもいいと思ったが、
シカマルが真剣に困った顔でもがき始めたので解放した。
さあ、これからどうしようか。いっそのこと世界一周二人旅でもしてしまおうか。
新たな選択肢にわくわくと心躍らせていると、シカマルがじっと空を見上げた。
つられて見上げる。


「…………飛行機。軍、かな」
「多分な。こっちに気づいてるかもしれない。
 広いとこに出るのは得策じゃねぇ。坑道に戻ろう」


急いで来た道を引き返したが、どうやら、ある程度自分たちの逃走経路はバレていたらしい。
既に坑道の出入り口をはじめ、至る所に銃剣を持った軍人たちが配置されていた。


「こりゃ、参った」
「軍人もよっぽど暇なんだね」


階級の高い兵士を捕まえて人質にしようかと見繕う。
残念なことに、この場に出ているのは一般兵だけのようだが。

「ね、シカマル。ここはさぁ、大人しく捕まっとく?(訳:軍を根元から潰そう)」
「………お前がそうしたいなら、そうすればいいさ」

シカマルがもう、全てを諦観しているような顔で頷く。
ここを逃げるのはちょっとキツイし、どちらにしろ捕まるのだろうけど。
誰か物分りの良い軍人はいないかと、またぐるりと周囲の顔を一瞥すると、
何か、光が反射する点が見えた。
あれは



瞬間、小さく空を切るような音。



「ナルト!」




シカマルに、思い切り抱きしめられる。
が、数秒で力が抜け、俺に寄りかかるようにして倒れてしまった。



「シカマル………」


またパニックになりそうな頭を叱咤して、シカマルをゆっくりと地面に寝かせる。
音からして、拳銃じゃない。
体を調べても、特に出血は見られない。
ひとまずほっとすると、頭上から能天気な変態の声が聞こえた。


「あれー、ナルト狙ったのに外れちゃった?」


暢気なカカシの声。
が、手の仕草で『捕獲しろ』と指示を下した。
取り囲む兵士の一人が、背後から羽交い絞めにしてきた。


「大丈夫。こっちの子は麻酔銃で寝てるだけだし、
 抵抗しないならナルトにも一切危害を加えたりしないよ」

更に別の兵士が、昏睡しているシカマルを乱暴に抱えようとした。



「おい、てめぇ。シカマルに触んじゃねぇよ」


自分でも驚くほどドスのきいた低い声。
シカマルに触ろうとした奴は勿論、
何故か俺を捕まえていた兵士までびくりと硬直し、手を離してくれた。
しょうがない。こうなったらノリだ。

「カァカァシィ?覚悟はできてんだろうなぁ?」
「ちょっと、待ってよナルトぉ!俺だってそっちの子狙ったわけじゃないんだよ!?」

思いっきりカカシを睨み付けると、
俺たちの間を隔てるように立っていた兵士たちがズザザと道を開けてくれた。
そのまま道を歩き、言い訳がましいカカシの襟首を掴み上げる。
身長差のせいで、かなりきつい体勢にさせているが、俺は大丈夫なので気にしない。
そのまま、首をガクガクと振り回す。

「そんな言い訳通じると思ってんのか!!
 もしシカマルが二度と目ぇ覚まさなかったらどうする気だ、あぁぁん!!?」
「わかりました!ちゃんと介抱するよう手配ゴボハァッ!」

五月蝿いので鳩尾に一発決める。
自分で言うのもなんだが、人間を恐怖で言うこと聞かせる術は、いくつか知っている。

意識を失ったカカシを足元に転がし、
次にこの場で偉そうな、黒服のグラサン男たちに微笑む。


「ってわけで、ベッドの用意、頼むね。
 きちんとした医者の手配もだよ。わかった?」
「え、いや、その」
「わかった?」
「はい!!」


うん、いい返事。
流石に軍の人間だけあって、しっかり教育されてるね。













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