不覚、だったと思う。
いくらナルトを庇ったといっても、
敵の前で倒れるのは、どうしようもない俺のミスだ。
最近部屋に引きこもって動かなかったからなぁ。身体も鈍っているんだろう。


つらつらと一通りの反省を終え、改めて状況を確認する。
寝たふりで気配を探っていたが、どうやらこの部屋には監視はいないらしい。
慎重に、目を開けて周囲を見渡す。

てっきり牢屋にぶち込まれたかと思ったが、見た限り、こりゃ客室だ。
温かみのあるクリーム色の壁紙の部屋。
特に疑問を持ってなかったが、よく見たら枕は羽毛製。ブランケットは刺繍入り!
ご丁寧に湯気の出ている紅茶と茶菓子がテーブルに並べてられている。
本当に、捕虜にしちゃ良過ぎる待遇。
軍の狙いがラピュタなら、必要なのはナルトだけのはず。

俺が不可思議な状況に考えをめぐらせていると、
控えめなノック音が部屋に響いた。
鍵は掛かっていない。
返事をせず、テーブルに置かれた果実ナイフをポケットに仕込む。



しばらくノックは続いたが、とうとう止んだ。
数秒の間を置き、ドアが静かに開けられた。
気配は二つ。すぐに飛び出せるように足に力を入れる。


「よ、シカマル」
「………………………ゲンマ、ハヤテ」


緊張感が一気に抜ける。
ビジネスライクの関係で、友人と呼べるような仲ではないが、
とりあえず親しい。少なくとも俺を軍に売るような人間でないことは確かだ。
ちなみに軍部の暗号解析のバイトを俺に提供しているのも、こいつらだ。



「……ナルトは?」
「一緒にいた飛行石の子か?今は別の客室で軟禁中」
「俺は?」
「そのナルト君が、君の身の安全と治療を要求しているので、今のところ賓客扱いです」
「あれ要求っつーか、脅迫だったよな!!」

ゲンマがさも楽しそうにクツクツと笑う。
よほど面白いことをしたらしい。
相変わらず不健康そうなハヤテの睨みで、一応笑うのはやめた。

「ま、俺もまさか飛行石と一緒にお前がくっついてるとは思わなかったぜ」
「………偶然だ」
「ツキを引き寄せるのも実力実力。後はラピュタに行く船に紛れ込まんきゃな」
「あいつ、ナルト、協力するって言ったのか?」

意識を失う前、弱気だったナルトの顔が過ぎる。
大蛇丸の妙な警告もあり、不吉な予感があったのだろう。
そのナルトが軍に命じられたからといって協力など、考えられない。

「いーや、まだ交渉してねぇしな。
 いざとなったら拷問でも何でもやるんじゃねぇの?」
「……………シカマル君。心苦しいのはよくわかります。
 大佐にかけあって、できるだけ穏便に事が進むようにしますから」

彼らの反応は、当然のことだった。
二人の目的はラピュタにたどり着くこと。
そのためなら、どんなことでもする。
子ども一人の人生がどうなっても、躊躇わない。躊躇ってはいけない。
それは俺だって、同じだ。


なのに。


たった一日二日。
ほんの僅かな時間を共有しただけなのに。



「なあ、二人とも」
「何だよ?」
「ちょっとびっくりするようなこと言っていいか?」
「どうしたんです?シカマル君」


「悪い、ラピュタ行くの……もう少し待ってくれ」
「「は?」」


二人が呆気に取られた隙を突き、ポケットの果物ナイフを握り締める。
どちらを相手にするか迷ったが、近くにいたゲンマに狙いを定め、首筋に刃を沿わせる。


「…………どーいうつもり?」
「絶対ラピュタは探す。見つける。連れて行く。だけど、ナルトは見逃せ」
「つまり、飛行石をみすみす放置しろ、と?」
「わかってくれて嬉しいよ。ハヤテ」


俺とハヤテの応酬にとうとうキレたらしく、ゲンマが一気に怒気を吐き散らした。
俺が背後からナイフを突きつけて脅している形なので、
真正面から怒鳴られないのがせめてもの救いだ。


「ふっざけんなよ!?お前、俺たちがどれだけラピュタを探してるか知ってんだろ!!」
「ああ。親父が死んだすぐ後だから、もう二年近くだな」
「…………このチャンスを逃せって、本気で言ってるのか?」
「飛行石がなくても親父はラピュタにたどり着いた」


自分でもどうしようもないぐらいの詭弁。
人よりはよく回る頭も、素晴らしい説得の言葉を捻り出してはくれない。
俺もゲンマも黙り込み、こう着状態に陥ってしまったところで、
ハヤテがゆるりと頷いた。

「仕方ないですね」
「ハヤテ!?」
「ゲンマ……シカマル君が人との約束を違ったことがありますか?」
「…………………」
「彼が協力してくれると言うなら、少しぐらい時期が遅れてもいいじゃないですか」
「何でハヤテはシカマルの味方なんだよー。俺の相棒だろ!」
「……シカマル君が、何故こうして必死になっているか、ゲンマはわからないんですか?」


じっと咎めるようにゲンマを軽く睨むハヤテ。
なんか、嫌な予感、する。



「折角の初恋なんですよ?快く応援してあげましょうよ」
「「………はい!?」」
「そりゃ初恋の人が囚われてたら助けに行きますよねぇ。
 ラピュタが見つかれば、機密保持で良くて監禁、悪くて即始末される身ですし」

ハヤテは、いつにも増してキラキラと輝く微笑を俺に向けた。
凄まじい勘違いだ!!
何とか否定の言葉を搾り出そうとするが、
ゲンマが勢いよく振りむいて俺の肩に掴みかかってきたので、何も言えなくなった。

「………………悪かった」
「へ?」
「シカマルの気持ちも考えずに、安易にナルト君?……を見限ろうとして、悪かった」

ひ、否定したいが、ある意味この展開は自分に都合がいいのか?



「俺、今は亡きシカクさんの分も含めて全力で応援するぜ!!」



目を爛々とさせて俺に親指を立てるゲンマ。
今ここで間違いを指摘しなけりゃ、更に恐ろしい展開が待っている気がするが、
時間が勿体無いのであえて訂正しないことにした。









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