シカマルと引き離されて、はや数時間。
麻酔はそう強いものでもないしそろそろ目覚めたかもしれない。
今の俺の立場なら「お願い」でシカマルの傍にいることもできたが、
どうしても調べたいことがあった。ま、シカマルなら大丈夫だろう。


見張りの兵士に持ってこさせたラピュタの書籍の山から、一冊手に取る。
流石ラピュタを欲しているだけあって、軍の保有する本は中々の量だ。
その中でも、奈良シカクの本はすばらしく質が高い。
ラピュタの外観写真を掲載し(シカマルの家にもあった)、
地上に伝わる御伽噺との関連性や、高度な文明を築いた経緯を、
理に沿った考察で丁寧に綴っていた。
おそらく、このシカクさんが、シカマルの父親なのだろう。
シカマルの家には、何故かこの人の本は一冊もなかったが、読めてよかった。

いっそ、シカクさんの資料を重点的に絞って調べたほうが効率が良いかもしれない。
山を崩して、彼の名前の載っている資料を探す。
何枚か書類を取り出していくと、一枚、気になるものを見つけた。

それは、ラピュタの調査書でもなんでもない、簡素な報告書。
ただ、シカクさんの名前だけが、載っていた。


『奈良シカク。獄死』



獄死?どういうことだ?
亡くなっていることは知っているが、シカマルはそんなこと言ってなかった。
大体、獄死ってことは、捕まったってことか?
何で??

疑問でいっぱいいっぱいな頭を左右に思い切り振り、その報告書をもう一度読む。
送信元は、軍ではなくその直属の研究所。
シカクさんは軍の研究者だったのか?




「ナールト、入るよ?」
「カカシ。良いところに来た。これ、どういうこと?」


おそらく、俺の説得に来たのであろうカカシを招きよせる。
(結構思いっきり殴ったのだが、よくこの短時間で回復したものだ)

嬉しそうに近づくカカシに、報告書をつきつける。


「これ、どういうこと?シカクさん、何で獄死とかになってるわけ?」
「あー、ラピュタ研究の第一人者……俺もこの人の研究報告には感動したなぁ」
「お前の感想なんて聞いてないの!何で死んだんだよ!!」

カカシは少しだけ、軍の機密事項を喋ってよいのかどうか迷ったけれど、
俺の機嫌を今損ねるのは拙いと気づき、小声で教えてくれた。

「この人、軍の協力要請に反抗したらしいんだよね」
「…………」
「ただでさえラピュタは、できるだけ軍が秘密裏に進めたい研究なのに
 シカクさんは研究を公表しちゃってたわけだし。強引に拉致って
 研究所に缶詰にしたらしいけど、結局最後まで反抗して、殺されたみたい」
「………………そんな酷いこと、したのか」
「軍ってより、その研究所が相当荒れてたらしいんだよね。
 この報告が来て、軍部も何らかの処分を検討したんだけど、
 その前に大火災が起きて、結局潰れちゃったよ」


シカマルは、父親の死の事実を、どこまで知っているのだろう。
父親を殺した遠因ともいえる、「ラピュタ」を、どう思っているんだろう。
………俺を、どう思っているんだろう。


「ま、俺が入ってくる前の話だから、よくは知らないけど」


カカシはそう締めくくって、俺に明るい笑顔を向けた。
いよいよ、交渉が始まるらしい。


「ナルト。そこまでして軍が表に出したがらないラピュタの秘密、知りたくない?」
「………聞かせてもらおうじゃないか。カカシ」


今は、シカマルのことは……考えないでおこう。









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