連れてこられたのは、地下の部屋だった。
狭い通路を抜ける途中、何度か見張りの兵士に遭遇した。
随分と厳重な警備だ。

到着した鉄扉を開けると、薄ぼんやりとした灯りの下で、
巨大な、人型のロボットが横たわっていた。


「このロボットは、空から落ちてきたものだよ。
 これがあるからこそ、軍もラピュタの存在を認めざるをえないんだよね」

ナルトは怖がることなく、ロボットに近づく。
四肢は無事なものの、損壊は相当酷い。どう考えても、スクラップだ。

「俺たちは、このロボットの材質すら特定できない。ほら、ここ見てよ」

カカシが指差す場所には、紋章が刻まれていた。
ナルトには見覚えがある、どころか馴染み深いものだ。

「飛行石の………」
「そう。飛行石はナルトが望まなきゃ発動しない。
 石は持ち主を守り、きたる日に天空に帰るための道標となるため、受け継がれる」
「随分と詳しいな?」
「まーね」

カカシは、ナルトの反対側に歩いていき、ロボットの指を持ち上げた。
小さな、穴が指先に開けられている。

「分解はできないけれど、恐らくエネルギー噴出孔だってのが研究所の見解。
 指からレーザーが出るようなロボット、危険だろう?」
「で?」
「ラピュタは恐るべき科学力で、この地上を支配できる脅威の帝国だ。
 こんなロボットが大量にいるかもしれない国が、空中に彷徨ってる……
 それだけで危険なのは、わかってくれるでしょ?」
「………………」
「協力してくれれば、黒髪の子は無事町に返すと誓う。
 ナルト・トエル・ウル・ラピュタ?」

俺の、正式な名前。
自分しか知らないはずの名前を口に出され、勢いよくカカシを見上げる。
その食いつきの良さに、カカシは満足げに笑った。

「ウルはラピュタ語で王。トエルは真の意。
 飛行石を持つ人間は、正当なラピュタの後継者だってことさ。
 ……だからこそ、ラピュタの捜索に、君は協力する義務があるんじゃない?」
「ふーん。俺って、王様だったんだ」
「そう、わかってくれるね?」
「ってことは全世界は俺のものになるのか……」
「うんうん、そういうこと………って何恐ろしいこと言ってるノ!!?」

カカシがツッコミをいれようとするのを避け、カウンターで顔面左ストレート。
俺にツッコミなんて、百年早いね。

「結局さー、軍がラピュタの力利用したいだけだろう?
 俺が何もしないほうが、むしろ世界平和になるじゃん」
「まあ、俺もそう思うよ。でも、ナルトにはもう選択肢ないでしょ」
「……………どーいうことかねぇ?」
「いくらナルトでも、軍の本拠地ど真ん中で、逃げることはできないし。
 ま、抵抗してもナルトは殺されないからいいんだけどさ」
「シカマルは?」
「それは、ナルト次第」

最初から選択権が無いと自信満々な様子のカカシ。
別に、逃げられないわけではない。むしろ、軍の本拠地だからこそ、できることもある。

ラピュタは、俺にとってはほとんど記憶の無いけれど、それでも故郷だ。
ラピュタを兵器としか見ない軍の連中を、踏み入れさせたくない。

「そういえばさ。すごい偶然だよね」 
「何が」
「ラピュタの後継者が、まさか奈良シカクの息子と一緒に逃亡してるとは、思わなかった」
「…………………………………調べた、のか」
「そりゃ、身元はハッキリさせとかないと」

カカシは、最高の切り札を出した、と言わんばかりに口元を吊り上げた。

「一応、機密だからね。知らないと思うよ。
 父親がラピュタのせいで、軍の研究所に殺されたことは」
「……シカマルは、俺とラピュタを同一視するようなことはしない」
「それは、ナルトの希望だろう?」

痛いところを突いてきやがる。
そうだ、シカマルは、良くも悪くも、ラピュタにこだわっている。
俺を助けてくれたのだって『ラピュタを悪用されたくない』という理由だ。

「ナルト。これ以上、彼を巻き込んでいたら、お互い傷つくと思うよ?」
「………流石大佐ってやつ?意外に交渉巧いじゃん」
「半分は、本気で心配して言ってるからね」

カカシに説得されたわけじゃない
シカマルが信じられないわけじゃない。
俺自身が、自分を信じれらないのだ。








兵士に連れられたシカマルは、何かふっきれたような顔をしていた。
直接顔を見たら、覚悟を決めたはずなのに、抱きしめたい衝動がぐわりと湧き上がった。
もう本当にかっこいいよ、シカ。
黙り込む俺を見かねて、カカシが仲介に入って事情を説明した。

「シカマル君。誤解していて悪かった。
 君がナルトを、海賊から守るために頑張っていたとは知らなかったんだ」
「……………………どういうことだ、ナルト?」
「俺、軍に協力することに決めたよ。今までありがとな。シカマル」
「調査は、極秘で行うことになってるんだ。
 お願いだから、これ以上は探らないでほしい」

カカシが、金貨を三枚、シカマルに握らせた。
シカマルは、相変わらず俺をじっと見つめている。

「もう一度聞く。どういうことだ?ナルト」
「……だから、俺は軍に協力するんだ」
「泣きそうだな、おまえ」
「泣きそう?」
「どうして俺の顔見ないんだ、何を言われた?」

カカシが実力行使で、シカマルの腕を掴む。
ほかの兵士たちも一緒になって、出口に引っ張っていく。

「あのさ、シカマル君だっけ?男があんまり粘着質じゃ嫌われるよ」
「てめぇに言われたくねぇよ!」
「「「っ……!!」」」

シカマルの一言が笑いのストライクに入ったらしく、兵士たちが口元を抑えた。
うん、すごい、的確な一言だったと思う。
その一瞬の隙を突いて、シカマルは俺の前に走りよった。


「ひとつだけ、聞いていいか?」
「……うん」
「俺のこと、嫌いになった?」
「そんなことない!!」

むしろ、俺が、嫌われるんじゃないかと、思っていて、

「よかった」

なのに、シカマルは、心底安心したように脱力して、
お前そんなキャラじゃないだろうってぐらい優しく笑ってくれて、


「じゃあ、泣かせたのは俺じゃなくてこいつらだな」


……………とっても怖かった。











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