カカシが飛行船のコックピットに行くと、そこには軍服を着た女性が立っていた。
じゃらじゃらと階級章をつけた軍服は、お世辞にも似合っているとは言いがたかった。
「カカシ!あの子どもは白状したの?!」
「まだですよー」
「ったく、どいつもこいつも役に立たないやつばっかね!
いっそのこと締め上げちゃえばいいのよ」
「そんなことできるわけないじゃないですか」
こちらの命が危ない、とカカシは冷や汗をかきながら首を横に振った。
それをどう曲解したのか、アンコは深くため息をついた。
「はぁ・・・これだからロリコンの気持ちはわからないわ」
「・・・・・・・(否定するにしきれない)」
ナルトは暇だった。
シカマルが迎えに来るので脱出を考える必要も無い。
何もすることがないと、つい過去のことを振り返ってしまう。
シカマルのことは、もう振り返る必要が無いぐらい考えに考えつきた。
すると知らず知らずのうちに、シカマルと出会う前・・・ずっと昔の過去のことを振り返っていた。
「うぇ・・・ふっ、えー・・」
幼い頃の自分。
何故泣いていたのかわからないけど、ともかく泣いていた。
「ちょ、ナルちゃん!どうしたのー、誰かに苛められた?!」
「誰がナルちゃんだ!この親馬鹿!!」
心配そうに屈みこんできた親父の顎に、アッパーを決め込んだ。
倒れる親父。
舌でも噛んだのかダラダラと口から血を流している。
「ナル君ひどい〜!パパ泣いちゃう・・・」
「・・・まじ気色悪い!!」
「うぅ・・先生、可愛いわが子が反抗期みたいです・・・。どうすればいいんでしょーか・・」
しゃがみ込んで鬱オーラを出しまくっている親父に、ため息一つ。
『先生』とは、よく出てくる言葉だ。
子供の頃に世話になった、『師匠』のような存在だったらしい。
その『先生』と肩を並べるほど実は強かったらしいが、
今目の前にいるこの男の血が自分に半分も流れているかと思うとぞっとしない。
「リーテ・ラトバリタ・・・ウルス。アリアロス・バル・ネトリール・・・・リーテ・ラトバリタ・・」
「・・・親父とうとう電波入っちゃったのか・・・・?」
ガバッと顔を上げる男。
「失礼な!これはねぇ、秘密のおまじないなんだよ!『我を助けよ、光よ甦れ』って
素敵な意味のおまじない!」
「ふーん・・あっそ」
随分メルヘンチックな父親だ。
いや、今までを振り返ってみれば元々そういう素養は持っていた。
「そうだ、ナル君も覚える?リーテ・ラトバリタ・ウルス、アリアロス・バル・ネトリール♪」
「覚えないよそんなもん」
「うー・・・ひどい、付き合ってくれてもいいじゃん・・
先生〜、ナル君はノリまで悪くなっちゃいました・・・・うわーん!!」
・・・・・・ああ、なんて親父だったんだろう。
どこまでも自分に甘くて、そして泣き虫。強さの片鱗も見せなかった。
でも殺しても死にそうにないぐらいしぶとそうで。
だから、まさか、死ぬとは思わなかったんだ。
「ねえ、ナル君」
「・・・『ナル君]』もやめろって言ってんだろ」
「ははは、いいじゃないか。可愛くって」
穏やかないつもの会話。
何も変わらない。
この微かに匂う血の臭気以外は。
「・・・・ナル君は、わかってるんだよね」
「何が」
「僕もナル君も、普通の人間じゃないんだ」
「んなもん、関係ない」
「僕たちがそう思っていても、周りはそう思ってくれないよね」
今までお互いわかっていたことだけれど、あえて触れなかった事柄。
何故いきなりそんなことを。
わかっていることだけれど、わかりたくない。
「ねえ、暖炉に隠してあるあのペンダント。これからはずっと身に着けていてね」
僕たちの大切なものだから。
あれさえ持っていれば、なんとかなると思うから。
「・・言い残すことはそんなんでいいのか?」
「僕はここでの生活に満足だったよ〜」
「名前とか特徴とか言ってくれれば、敵討ちぐらいしてやるぜ?」
「・・・・・・ここにはもう、ナル君を殺そうとする人はいないよ。
だから、もうナル君も・・・殺さないで」
言い切ると、すっと足元がぼやけてそのまま一瞬で消えてしまった。
これが『人でない俺たちの末路』
死体すら残らないのだろうか。
床に少しだけ垂れていた紅い血の跡すら、消えていた。
これが俺の末路。
死んでも、何も遺せず消えるのだろう。
『ねえナル君。もし辛くなったら、このおまじないを唱えるんだよ』
「・・・・リーテ・ラトバリタ・ウルス、アリアロス・バル・ネトリール」
ぼそっと、何となく呟いた言葉。
何となく。
助けてほしいと思っていたわけでないし。
おまじないなんて効くわけないと思っていた。
いや、まさか、ねえ。
「あのロボットが動いたぞー!!!」
「うぇ、壊れてなかったんか!?」
こんなことになるとは・・・・・・ちょっとは、思ってたけど。
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