「綱手、おまえも変わったのぉ、軍に手を出すとは・・・勝ち目はねぇぞ」
綱手の部屋。
仕事もひと段落ついたので、自来也と綱手は部屋にあるチェスゲームをしていた。
二人とも頭を使うゲームは得意なので、いつも白熱したゲームになる。
自来也は喋りながらチェスの駒を一つ動かす。
じっと盤を見る綱手。
右手で駒を掴み、乱暴に動かした。
「ラピュタの宝さ・・多少の無理はするさ」
「くくっ・・確かにいい子だな?あの二人は」
コトリ、と駒の置かれる音。
「何が言いたい・・・・」
「おめぇがあいつらに肩入れしたくなる気持ちもわからなくはねぇっつーの」
「はぁ〜!?」
「・・・お、こりゃ王手」
「何のことだ・・・って、えぇ!?あー!!ちょ、待った!」
気づいたらあっという間に追い詰められていた。
いくら盤上を眺めても戦局が変わるはずはない。
「五連勝」
「・・うっさい!!」


「・・・・すげぇなぁ。俺が見た時はすっげぇ汚かったのに・・」
「あれ、シカマル前にこっち来てたの?」
「おう・・最初のほうに一回ここの通路通った」
台所はとても綺麗、とまではいかないまでも
十分人の食べる料理を作る場としては機能するぐらいには片付いていた。
他の海賊たちは最初からいたのでシカマルが一番最後にここに来た。
椅子に座ったシカマルの前にナルトは綺麗に盛り付けたカレーライスを置いた。
「・・・・・ごめんね、鯖は無かったからカレーにしちゃった」
「別にいいぜ?そんなもん作らなくっても俺は食えりゃ満足」
それにこのカレーもすごく美味そうだし。
と付け足すと、ナルトは顔を綻ばせた。
「あのー、ナルトさん・・・俺らの皿は?」
キバが恐る恐る尋ねると、ナルトはにっこりと笑った。
「てめぇで盛り付けろや」
「・・・・すみません」
「あー・・・・何か、こいつら凄く疲れてるみたいだけど・・?」
「海賊さんもお仕事大変なんだねぇ」
シカマルの問いに、ナルトはしらばっくれる。
自分が思いっきり働かせたとは微塵も感じさせない答えだ。
シカマルは椅子から立ち上がって鍋の近くに移動する。
「シカマル?」
「いや、なんか本当に疲れてるみたいだし。俺がついでやるさ」
シカマルは背をこちらに向けて、積み重なっている白い皿に手を伸ばす。
ナルトはそれを見て、ぎろっと海賊たちを睨みつけた。
『てめぇら、シカマルの手を煩わせやがって・・・・』
目は明らかにそう語っている。
「「「「じ・・自分でやります!!!」」」」
「んあ?そうかぁ?」
「ほら、この人達もそう言ってることだし、シカマル俺の手料理食べてよv」
「・・おー、わかった」
一応、料理自体は本当にナルトの手作りである。
シカマルがスプーンを持ち、カレーを掬う。
その一挙一動にナルトだけでなく海賊たちもじっと注視する。


「・・・うめぇ」
「あ、ありがと・・・」
シカマルのふと出た言葉。
その言葉にナルトは少し顔を赤らめる。
どうやら料理下手、というわけではないらしい。
今までのナルトの言動を見てしまっているので、何か恐ろしいことが起こるのでは・・と
料理に口をつけるのを躊躇っていた海賊たちもシカマルの反応を確かめ、一斉に食べ始める。
「あ、これとってもおいしいよー」
チョウジは素直に思ったことを口にした。
ナルトもチョウジの賞賛を素直に受け取って笑顔を返す。
「ん・・・あ、本当だ。てっきり・・・・というか絶対不味いと思ってガハッ!!」
キバが最後の言葉を言う前にナルトは俊敏な動きで背後からきゅっと首を絞めた。
先ほどチョウジに向けた笑顔とはまた別物だが、笑顔には変わりない表情で。
「・・・・・キバ、いい加減に学習しろ・・・」
サスケの言葉は、当然のことながら白目を剥いているキバには届かなかった。



カチャカチャと食器のぶつかり合う音。
全員が食べ終わり、ナルトは皿を片付けていた。
シカマルは台所に残り、それを何とはなしに見ている。
ナルトも特に喋りはしない。
ゆったりと、静かに時間が流れていくのが感じられる。
これもこれでなんか夫婦っぽくていいよなー・・・とナルトが考えているとは、あえて言うまい。
「・・・・・ナルト」
「何?シカマル」
「今日、自来也さんがナルトのお父さんのことちょっと言ってたよな」
「・・・・・・・・うん」
「もし詳しく聞きたかったら、夜に来れば話してくれるって言ってたんだけど、
 ナルト・・・行ってみるか?」
「・・シカマルは、俺の親父のこと知りたい?」
食器を洗う手を止めてナルトはシカマルを振り返る。
机に肘を突いているシカマルと視線がかち合う。
「ナルトが教えたくないんだったら、俺は聞かない」
きっぱりはっきりと。
気になるだろうに、聞きたいだろうに。
それでもシカマルはそう言ってくれる。
「・・・・・・俺、実際のとこあんまり親父のこと知らないんだ・・
 シカマル、自来也さんが何かを教えてくれるなら、俺はおまえと一緒に行って聞きたいよ」
「・・・おぅ」
「じゃあ、ちょっと待ってて。この片付け終わらせてから行こ?」
再び食器を洗い始めたナルト。
だから知らない。
後ろにいるシカマルが、哀しそうに目を細めて自分を見ていたことを。