「・・・ゲンマ、私たちここにいて大丈夫なんですか?」
ハヤテの言葉にゲンマは笑うだけだ。
その根拠の無い自信が逆にハヤテを不安にさせる。
二人のいる場所は飛行戦艦。
船は着々と・・・ラピュタへ向かっている。
「はぁ・・暗号解析の部署の人間がここにいたら絶対咎められると思うんですけどね」
「大丈夫じゃねぇの?ハヤテは心配しすぎなんだって」
「何が大丈夫なの?」
「そりゃ・・・ってカカシさん」
いきなり会話に紛れ込むカカシに、ゲンマとハヤテは顔には出さないが驚く。
当のカカシは飄々として今にも崩れそうな古書の束を抱えている。
「・・・・・あー、何か大変そうっすね。手伝いますか?」
「さっすがゲンマ、頼むよー」


カカシの私室に入り、二人は持ってきた古書を机に置く。
同じような本が部屋には沢山積まれていた。
それを見て、ゲンマとハヤテは純粋に感動した。
「へぇ・・カカシさんってなんか実はすごい人っぽいですね」
「あのさ、ゲンマ・・・それってどういう意味よ・・・」
カカシとゲンマが変なやり取りを交わしているのを尻目に、
ハヤテは部屋にある本を一冊手に取ってみる。
『LAPUTA』
・・・著者は奈良シカクと書かれている。
とても見覚えのある名前。
「カカシ大佐・・・・この本」
「ん?ああ、ラピュタの資料の一つだよ」
ゲンマも著者が誰だかわかったのだろう。ハヤテと一瞬目を合わせた。
それに軽く頷き、ハヤテは壊れ物を扱うかのように丁寧にその本を机に置いた。
「カカシさんって本当にラピュタが好きなんですね〜」
よくよく見れば部屋にある本は全てラピュタ関連のもののようだ。
カカシはじっと二人の顔を交互に見て、にっこり笑った。
「ま、ゲンマとハヤテは俺と同じっぽいし言ってもいいか。
 俺の目的はラピュタだからさ、もう好きとかそういう次元じゃないんだ。
 見つかればもうこんなうざったい軍なんてすぐに抜けるもん」
「・・・・・・あんたいきなり何さらっと恐ろしいこと言うんですか」
「二人とも・・・俺と同じように見えるけど?
 目的があってここに乗ってる。それが終われば、ここ抜けるだろ」
「・・・・・・・・カカシ大佐って、本当に頭は良かったんですね」
「どーしても、あの変態ショタコンのイメージが強いからなぁ」
しみじみと、褒めているんだか貶しているんだかよくわからない台詞を呟く二人。
「・・二人とも本当に失礼だね」
カカシは恨めしそうな目で二人を見る。
だがやはり否定しないあたり、あながち間違ってはいないのだろう。
「で、二人は何が目的で軍に入ったの?」
「・・・・んー」
「まぁ、ラピュタに関係ないってわけではないですね」
「そうだなぁ・・うん、ラピュタに関係無くはないな」
「何その曖昧さ」
「カカシさんこそ何でそこまでラピュタに拘るんですか」
「・・・・・・曖昧って最高だね!」
手のひらを返したように笑顔になるカカシ。
隠し事には触れないほうがお互い無難だ。
「・・じゃあ、俺らはそろそろ帰りますか」
「一応言っとくけど、おまえらが咎めだてされても俺庇わないよ?」
二人がここにいるには場違いな人間であることは、ちゃんとわかっていたようだ。
ゲンマは不敵に笑った。
「そんな馬鹿なミス、するとでも?」
「・・・しそうに無いねぇ」
カカシがつまらなそうな顔をすると、
ゲンマの隣にいたハヤテがおずおずと話しかけた。
「あのー・・カカシ大佐」
「何、ハヤテ」
「・・・・この本、譲ってもらえませんか?」
「・・・・・・・・・・・別にいいけどね。どうせそこら辺の本は目ぇ通したし」
ハヤテが指差した本をしばらく見て、カカシはそう言った。
「ありがとうございます」
「じゃ、失礼しました〜。・・・カカシさん、これは余計なお世話だとは思いますけど
 もうあの金髪・・ナルトだっけ?諦めたほうが身のためですよ〜。ありゃ脈なしですって」
「余計なお世話だよゲンマ!ナルトは絶対俺のお嫁さんになるの!」
ナルトの名を出すと顔を崩すカカシに、二人は苦笑しながら扉を閉めた。


「・・・ハヤテ、その本」
「ええ、奈良さんの本ですよ」
ハヤテは先ほど譲ってもらった本をゲンマに渡す。
人気の無い倉庫で、ページを捲る音だけが聴こえる。
「・・・・カカシさんも凄いな〜、よくこの本手に入れられたな」
「まあ、軍部関係者ならそう難しくないんじゃないでしょうね」
「・・・後でシカマルに返してやるか」
「そうですね」
本を懐にしまうと、物音が聞こえてきた。
足音。人数的に複数。
「・・・・・とりあえず隠れねぇとな」
ゲンマの小声の提案に、ハヤテは頷く。
二人は足音とは逆方向に音を立てないよう走って行った。