「おい、シカマル・・・」
こそっと掛けられる声に目を覚ますと、目の前にシノがいた。
「・・・見張り番か?」
「ああ、三時間経ったらサスケを交代に行かせる」
「わかった」
「寒いからこれ」
手渡されたコートと帽子を身に着けて部屋を出るシカマル。
厚着だが、高度のある場所はとても冷え込むのでこれぐらいが丁度いいらしい。
上の見張り台に登っていくとそこにはチョウジがいた。
「見張りの交代」
「んー、わかった。・・・ここすっごい寒いから、毛布置いておくよ」
「すまねぇ、ありがとう」
どういたしまして、と言いながら手すりを降りていくチョウジ。
空にむき出しの手すりは、足を踏み外したり手を離してしまえばすぐに海に落ちてしまう。
死と隣り合わせ。
不意にそんな言葉がシカマルの脳裏に浮かんだ。
自分の、あまりに当たり前すぎる思考に苦笑しながら周囲をぐるりと見渡す。
海のように広がる雲。
「・・・このどこかにラピュタがあるのか・・・・」
幼い頃、親父が子どものように目を輝かせて自分に語っていたラピュタ。
半死半生でやっと家に帰ってきたのに、
そんな傷を気にすることもなく自分が撮影してきたラピュタの写真を見せてきたこともある。
まぁ、それを見た母は親父をぶん殴ってベッドに強制送還したのだが。
何だかんだで楽しかった日常・・・・・・そんな父も母も、もういないけれど。
ラピュタの存在を隠匿したい政府と軍に父は連れて行かれ、
それを抗議しに行った母もそのまま帰ってこなかった。
そして自分は・・・・・・・・・。
全てをラピュタのせいにして恨もうとした時期もあった。
全てを両親の自業自得と割り切ろうとした時期もあった。
全てを己のせいにして復讐をしようとした時期もあった。
だが結局どれもできなかった半端者。
「・・・カ・・・」
ふと、どこからか声が聞こえた。
もしやと思い下を見ると、きらきらと目立つ金色が見えた。
「・・・・・ナルト?」
「シカー!」
器用に手すりを登って、あっという間に見張り台に来たナルト。
そんなナルトに苦笑しながらもシカマルは少し端によって一人分の席を開けた。
そこに座り込んで、ナルトはにっこりと笑った。
「来ちゃった」
「・・ったく危ねぇな。ほら、寒いだろ」
チョウジから借りた毛布をばさっとナルトにかけて二人で包まる。
そのシカマルの行動に、寒いのか照れなのかわからないが顔を真っ赤にするナルト。
「・・・・・・ありがと」
「どーいたしまして」
シカマルはナルトに見えないように笑う。
先ほどまで、あれだけ暗い気分になりかけていたのに、
どうしてナルトがいるだけでそんな気分が吹っ飛んでしまうんだろう。
不思議に思うが、悪くは無い・・とも思う。
よくよく考えてみれば、
自分はあまり同年代の子どもとここまで一緒に時間を過ごしたことは無かった。
そう・・もしかしたら、ナルトは親友というものなんだろうか。
だから一緒にいて楽しいし、嫌な気分も消えてしまのか。
シカマルが一人納得しているとナルトが不思議そうな顔をした。
「シカ、何考えてるの?」
「いや・・何でナルトと一緒にいると楽しいのかなって」
「え・・?」
シカマルの言葉に、ナルトは期待に満ち溢れた顔をする。
だが大して気にせずシカマルは言葉を続ける。
「ナルトが俺の親友だからだよ、きっと」
「・・・・・・・・シカマル・・」
何故かものすごく残念そうなナルト。
「何だ、どした?」
「ううん、なんでもない。・・・今はまだ、それでいいよ」
「・・・・?」