「・・海賊さんたちは、やっぱ俺たち以外全員捕まってるな」
「・・・・・どうすんの?助けるにしても、敵のど真ん中だし・・」

比較的見晴らしの良い場所に逃げ込んだ二人は、
兵士たちが広場を本拠地にしていることがわかった。
広場の真ん中には海賊たちが縄で縛られてまとまって座っている。
頭を捻る二人に、四代目は一つの提案をした。
「ねー、じゃあ、ラピュタの内部に行きなよ。あそこなら
 色んな仕掛けが作動できるから一発逆転もできるかもよ?」
「内部?」
「そう、ちょーっと先に行けば扉があるのさ。・・あー、でも飛行石が必要かも。
 ナル君、飛行石はどこ?」
「「・・・・・・・・・・」」






「・・・盗られちゃったわけね」
「うん・・ご、ごめんなさい」
大切なものだと、生前に父親が言っていたことを思い出したナルト。
だが本人は大して気にしている様子は無く、ひらひらと手を振った。
「んー、それはまあ、いいんだけどさ。じゃあどうやって侵入しようか」
「他に飛行石無しで開く出入り口みたいなものは無いんですか?」
「無いと思うな。少なくとも僕は飛行石なしで内部には入ったこと無いし」
再び行き詰って、重苦しい沈黙。
ふと、ナルトが思いついたように四代目を見た。
「親父が壁すり抜けて入って、実体化して内側から鍵開けられない?」
「無理だね。ラピュタの壁にはいたるところに変なまじないの呪文が刻まれてるから、
 僕でも入れないよ。それに実体化はすっごいエネルギーいるし、そうそうできないよー」
「何でまじないの呪文なんて刻まれてるんだ?」
「・・・・・・・・・・・んー、何でだろ。僕も深く考えたことないや」
目を逸らして落ち着きが無くなる四代目。
明らかに嘘をついている態度。
ナルトとシカマルはお互い目を合わせたが、結局問い詰めなかった。
今はそれよりも重要な問題が目の前にある。
「で、とりあえずどーする?」
「・・・軍が来てるってことは、あいつらが飛行石持ってるのは確実だよね」
「ああ」
「奪い返すっきゃないよね」
「・・・・・・OK」
ナルトの場違いなぐらい殊更明るい声に、シカマルは苦笑する。
力が有り余っているナルト。
あまり動けなかった憂さ晴らしに暴れまくる、と嬉々としたその顔には書いてあった。






「・・・・見た感じ、石持ってるそれらしい兵士はいないけどね」
こそこそとラピュタの建造物に隠れて、兵士たちの様子を探る三人。
と言っても、どうやら四代目は他の人間には見えないようなので、
彼だけ堂々と表に出て相手方の動きを二人に教えている。
「親父、わかるの?」
「うん。何たって飛行石は莫大なエネルギーを有しているからね。
 幽霊さんな僕にはそーいうオーラみたいなのが見えるのさぁ」
「便利ですね」
「ん、まあね!」
三人は階段を使い更に上部に上って行く。
美しい景色が手すりの向こう側に広がっていて、思わずナルトは見とれてしまった。
吸い込まれそうなぐらい綺麗で深い青。
手を伸ばそっと伸ばしたナルトを、シカマルは肩を叩いて留める。
「落ちるなよ」
「・・うん、ごめん」
四代目は二人より更に先に進んでいて、ふと立ち止まった。
「ナルくん、シカマルくん。飛行石持ってる人いたよ。こっちに向かってきてる」
「人数は?」
「三人。部下二人つれてるって感じ」
「・・・・勝てなくはないかな」
三人は、階段の踊り場まで上って立ち止まる。
戦闘の準備。
と言っても武器は全く持っていないが。これから兵士たちから奪う予定。
かつんかつん、と軍靴の固い音が大きくなってくる。
後ちょっと。
三人は分散して、臨戦態勢に入る。
三、二、一・・・・
「覚悟ぉ!!」
四代目は実体が保てないので、ナルトとシカマルが素手で攻撃する。
シカマルは上手く相手の急所に一撃を沈めたが、
ナルトは相手が悪かったのか、攻撃を止められてしまった。
「・・・ナルト?」
いきなり襲った相手に呼びかけられて、ナルトはふと、顔を覗いた。
最初に目に付いたのは銀髪。次に、顔の下半分を覆った変なマスク。
見覚えがあった。
「・・・・・か、カカシぃ?」
「会いたかったよナールートー!!!!!!」
がばっと、抱き疲れそうになって、ナルトはバックステップで避ける。
瞬間、四代目が叫ぶ。
「ナル君!!そっちは岩壁が脆くなって崩れやすいよっ!!!」
そう、確かに崩れやすかった。
ナルトが着地した瞬間、ずるりと、嫌な感触が足の裏に伝わった。
掴めるものが何も無くて、そのまま後ろに倒れこむ。
「ナルト!!!」
シカマルが強く叫びながら手を伸ばす。
両腕を掴み、ふんばって身体をひねる。
「うわっ」
ナルトは持ち上げられる感覚で、そのまま石段に投げ込まれた。
だが、シカマルはその反動で

「やっべ、後のこと考えてなか・・・・」

背後で呑気な声がすーっと小さくなって消えていくのが聞こえた。
ナルトはさっと血の気が引いて背後を急いで振り返る。
何もなかった。
さっきまでいたはずなのに、自分を助けてくれたのに、
シカマルがいなかった。
どんなに目を凝らしても、嫌味なぐらい透き通った青い空しか見えない。
「し、しか・・・・・・シカマル?」
「・・・・ナルト、こんなときに悪いけど、とりあえず君は来てもらうよ」
背後に、固い拳銃のようなものを押し付けられたのがわかった。
だがナルトは、呆然とシカマルが落ちて崩れた岩壁を、いつまでも眺めていた。














「まーったく。こんなとこに都合よく木の根がいっぱいあったから良かったようなものを・・」
四代目は、ふわふわと浮く身体で崖の壁面を見ていた。
密集して育った木の根が、幾重にも絡まっていて、更にそれにしがみ付いている少年が一人。
「いやー、何とかなるもんっすね」
「言っとくけど、こっから落ちたら死んじゃうんだからね。ナル君泣いちゃうんだからね」
「・・・はい」
「・・・・わかってるならいいけど。登ってこれそう?」
「大丈夫です。あ、ナルトに俺が無事だって伝えてください」
「わかった。・・・・あの銀髪の男が飛行石持ってるみたいだし、
 僕がいない間に万が一内部に入られたら追いかけられないしね。
 シカマル君はどうするの?」
シカマルは器用に木の根を使って絶壁を登っている。
話しかけられると、一度こちらを見てから、また登り始めて答える。
「とりあえず、海賊さんたちの脱出を手助けして、その後内部に入れる方法を探します」
「ん、わかった。じゃあ、落ちないようにね」
「はい」
四代目はふわふわと上に飛んで帰ろうとしたが、ふと、思い出したように笑った。
「僕、シカマル君、軍、それにナル君にラピュタ。いやーな偶然だねぇ。ってか懐かしいよ」
「・・・・・・・・・・そう、ですね」
シカマルが言い躊躇ったのを見て、四代目はしまった、と顔を歪めた。
「・・ごめん」
「いえ、四代目がそう笑って言えることなら、俺は大丈夫です」
「・・・・なら、いいんだけど」
何せ、あの時死なせてしまった張本人なのだから、四代目は。
浮きながら空を上っていく四代目を、シカマルは目を細めながら見送った。