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「さ、てと。ナルトには気の毒だけど、君にはついてきてほしいんだ」
カカシは羽交い締めにされているナルトを見下ろす。
あの場所、シカマルの落ちた場所で、動こうともせず、
むしろ後を追って落ちかねない勢いで下を見下ろしていたのを無理矢理引っぺがしたのだ。
ギラギラと目を光らせて睨みつける彼は、今にも喉元を食いちぎりそうな獣のようで、
ナルトを押さえつけている部下たちはなんとか持ちこたえている。
「カカシ大佐!私たちでは手一杯ですー!!」
「あー、ちょっと待って」
泣きそうな部下たちを一別し、カカシはのんびりと懐から飛行石を取り出した。
その石を壁に近づける。
青白く光る飛行石が壁と呼応し、模様のように細かい溝から
飛行石の光が電気のように一瞬にして駆け巡っていく。
「うわ・・・」
「見とれてる場合じゃないよ。ほら、入った入った」
光の筋が消える頃には扉のような入り口がぽっかりと開いていた。
カカシは感動する様子もなく先に部下を押し込め、自分も中に入った。
「この入り口はすぐ消えちゃうのさ」
何を発光源にしているのかはわからないが、壁の内部は比較的明るかった。
カカシが後ろを振り向いて入り口を指さすと、
確かに扉の面積がだんだんと狭まっているのがわかった。
「さあ、行こうか」
『ちょーっと待ったーーーっ!!!!!!』
誰かが叫びながら入ってきた。
その声の大きさに、ナルトも思わず目を見開いた。
『ナル君、大丈夫!?変なことされてない!!!?』
「・・・・・・親父?」
にっこりと笑った四代目は、ナルトの側に立った。
『ナル君、僕の声は彼らに聞こえないから、返事はしないでいいよ?
・・・・・・時間も少ないしね、色々言いたいことがあるんだ。』
あのおちゃらけている父親が、何かに焦っているようだった。
ナルトは神妙に頷いた。
ナルトが落ち着いたので、部下たちもほっとしながら手を放した。
一応逃げられないように、前にはカカシ、ナルトの後ろには部下たちがついて歩いている。
『まず最初に安心して〜。シカマル君は生きてるよ。
今壁登りの真っ最中だから、こっちに来るのは時間がかかる、もしかしたら
来れないかもしれない。わかった?』
頷く。
自然と口元が緩んで体の力が抜けた。
先ほどまでの激情はすっと波のように引いていて、我ながら単純な人間だと思った。
『あと、彼らの目的について。僕も彼らが何をしたいのかイマイチわからないけど
多分、この内部に存在する飛行石のコアが目当てだと思う』
首を傾げると、丁寧に説明を始めた。
『コアってのは今このラピュタを空に浮かばせている動力源なんだ。
これがないと墜落しちゃうからね・・・飛行石のでっかいやつだと思ってく
れればいいさ。はっきり言って、それが占拠されるとかなりやばい。
ってわけでナル君は彼らがコアにたどり着くのを邪魔してほしいんだ』
「どうやって?」
「ん、ナルト何か言った?」
「言ってねぇよバカカシ」
「・・・・・・・」
かなりショックを受けているカカシを無視するナルト。
部下たちは哀れみの視線を送るだけでナルトを注意しようとはしなかった。
『まあ、かなり入り組んだ道だから普通にたどり着けるとは思えないけど。
大きな石が浮いてる部屋についたら、急いで彼らを潰してくれれば平気』
ナルトが頷くと、四代目は満足した顔で笑った。
間に合った、と小さな呟きにイヤな予感がした。
『これで、今言わなきゃいけないことは言ったね』
「親父?」
『ごめんね。ちょっと、力の使いすぎで実体保てなさそう。
少し休ませて。すぐ、ナル君のとこに戻っ・・・・・』
最後まで言葉を言い切ることなく、四代目の姿は歪み、一瞬で消えてしまった。
驚いて周囲を見回すが一切気配はない。どうやら本当に消えたようだ。
まるで、昔、死に別れたあの時のような消え方。
僅かな不安を、これが最後の別れではないと言い聞かせて静めた。
「カカシ大佐、私たちはどこに向かっているのですか?」
部下の何気ない問いに、ナルトは耳をそばだてて聞き入る。
今自分に一番必要なものは、情報だ。
「んー。俺はいっそのこと全部部屋回りたいんだけどねぇ・・・・
一応他の兵士達の追っ手が来たら厄介だから、まず統制室みたいな部屋に行くつもり」
「・・・・場所わかってるんですか?」
「大丈夫!俺、土地勘あるから」
不安だ。もの凄い不安だ。
押し黙った部下の沈黙が痛々しかった。
ついて行く上司を間違えたな、とナルトは生暖かい目で彼らを見やった。
どういう基準で道を選んでいるのかは知らないが、
カカシは足を止めることもなく、通路を歩いていく。
奥に向かうにつれて、壁には呪符のような紙切れが
べたべたと貼られていて不気味さを増しているのだが。
「・・・・ここが一番壁の紙の数が多い扉だね。怪しいし、入ってみよか」
「怪しすぎて普通入りません」
今までになく呪符が大量に貼られている扉。
扉の表面がほとんど見えないほど紙に覆われている。
部下達は不満の声をあらわにするが、今このメンバーで
絶対的な決定権を握っているのはカカシなわけで、結局入ることになった。
「うわー・・・・これは、封印?」
何かに感心したような声をあげるカカシも、眉をひそめている。
逆にナルトは、この部屋に妙な懐かしさを感じて首を傾げた。
部屋は長い年月が経っているせいか、木の根やツタが隙間から根付いている。
石の床には太い綱と呪符、水晶のような透き通った玉に錆びた大剣。
規則性があるのかさっぱりだが、何かを取り囲むように円を作って配置されているそれら。
封印ではないかと言ったカカシの言葉も、あながち間違ってはいなさそうだ。
円の中央には意味不明な図形が描かれていて、遠くから覗き込んだナルトはぞっとした。
ソレは血で描かれていたのだ。
月日が過ぎ、匂いも色も落ちているが、
壁に、剣に、ところどころにまき散らされているそれは、明らかに血だ。
「ふぅん。一体昔に何があったんだろうねぇ・・・」
カカシが円に近づく。
ナルトはそれを見て本能的に後ずさった。
頭の中で警鐘が鳴り響く。
近づくな。逃げろ。
思い出せない・・・でも、自分は、この部屋を見たことがある。
ぎゅっと目を瞑って、正体不明の恐怖をやり過ごす。
「カカシ大佐!!!!」
兵士たちの叫びが聞こえ、反射的に目を開けたときには、
カカシは何故か光に包まれて姿がよく見えなかった。
何とか目を凝らしてみるが、金色の光に包まれて、髪の毛は逆立っているように思える。
「一体何したらあんなサイヤ人みたいになるんだよ!?」
側にいた部下の胸ぐらを掴んで強引に事情を聞き出す。
混乱で焦点の合っていない顔をひっぱたいて意識を引き戻す。
「つっ・・・研究のために採集しようと、玉を触ったら、あんな風に・・・」
「こんな怪しげなモン触るやつがいるか馬鹿っ!!!」
下手に手を出すことも出来ず、様子を見るしかない。
しばらくして、光の中からカカシが這い出てきた。
「大佐ぁ!?無事ですか?」
「・・・・・」
カカシは無言で周囲を見渡す。
何故か、ナルトの存在に気付き、驚いたように凝視する。
「・・・・・・おまえは、四代目?」
「はぁ?」
「・・・違う、な。そうか、おまえは・・ナルト」
自分の知っているカカシと違いすぎる。
光のせいで記憶が混乱しているのだろうか。
いや、でも四代目を知っているのだから、あれ?
「おい、おまえはナルトだよな?」
にやにやと笑いながら話しかけてくるカカシ。いつもと違う。
よくわからないから、とりあえず、頷いた。
その瞬間、勢い良く首をつかまれる。
「あっはっはっは!!やっぱなぁ、おまえがあの時のナルトだよな!?
でっかくなったな・・よし、お前も連れてってやるよ」
「カカシ大佐?」
「一体どうなさったのですか?」
部下たちが、心配そうに声を張り上げて近寄ってきた。
「うっせー人間どもだな・・・」
今までに聞いたことの無い声。
冷たく、押し殺したような低い呟き。
ナルトの首を掴んでいた手を放し、部下たちに手をかざす。
手のひらには小さな光が集まって、だんだん大きくなっていく。
「逃げろっ!!!!」
「え?」
ナルトの叫びと、兵士たちの声。
そして、爆発音。
カカシの手の光は、いつの間にか消えていて。
遠くに吹き飛ばされて倒れた兵士たち。
生きてはいるようだが、衝撃が強かったらしくぴくりとも動かなかった。
カカシは、とりあえず気が済んだらしく、無言でナルトを引っ張りながら歩き始める。
抵抗しようにも力が強すぎて、ナルトも歩かざるをえない。
「おい、あんた誰?」
「ん?」
「カカシじゃないだろ。もしかして、あの封印の、中にいたやつ?」
ナルトの問いに、にんまりと人の悪そうな顔で応えるカカシ。
「大当たり。俺は、憑依してるだけでこいつじゃないから安心しな。
名前は・・・・・・・まあ、九尾とでも言えばいいか?」
「きゅ、うび?」
どこかで聞いたことがあるのに、思い出せない。
その反応に、九尾と名乗ったカカシも、不思議そうな、面白そうな顔をした。
「なるほどねぇ。おまえも小さかったし、忘れちまったか」
何を?
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